03
冷静に考えてみると、僕は本当に、本当に何をしていたのやら。
雨に打たれながら物憂げな浜辺を眺める? なにそれかっこいい。ただしイケメンに限るっていう定番の流れ。この感じ。また誰かに主人公気取ってるキモーいと言われるやつではないか。これだから彼女もできない。素直にスタバに行こう。キャラメルフラペチーノを飲みたいという、その本能にしたがってみよう。
バス停でバスを待ちながら僕は、腕時計を見て時刻を確かめた。三分遅れている。無論、バスの方が。
「どこに行くんですか?」
隣の女の子が話しかけてきた。そういえばさっきも芸人みたいな挨拶をして登場してたなこの娘。
普段ならば適当にあしらう僕だが、いかんせんかわゆいので調子を合わせることにする。
「スタバです」
「タリーズではなく?」
「タリーズ処女がまだ疼くんです」
「童貞のくせにですか?」
「貴方なんなんですか?」
辛辣な言葉は僕を一瞬で目覚めさせた。なんだこの娘、人の繊細なところ土足で踏み込みやがって。
黒髪でサイドテールで二重で目が透き通っててぷにぷにしたくなるほっぺたで、ピンク色の唇で肌が白くて両手に程良く収まるくらいの形のいいおっぱいで、抱きしめたくなるような腰に頬ずりしたくなるような脚を見せつけている美少女だからって言って調子に乗るんじゃあない。
「私は五月少女です」
「五月少女ってなんですか?」
「重篤な五月病患者を励ます美少女です」
自発的美少女発言はスルーの方向で。
「いいっすねそれ」
僕はバスが来たので小銭の準備をしながら適当に言った。
「でしょう?」
しかしバスの扉が開いて整理券を取り、僕がよっこらせと後部座席に腰を下ろした後、あることに気がついた。
「……つまり僕は重篤な五月病患者であるってことですか?」
何の迷いもなく隣に座った彼女は、見るものを虜にしてしまうくらいの明るい笑顔で首を傾けた。
「そういうことになります」
「そ、そうですか」
バスはエンジンを震わせながら、都市高速へと向かっていった。