02
退屈な昼休みを終えてからの授業。
この日の僕は非常に弱かった。
僕は廊下側の座席一番前という何ら面白くもない座席で、化学反応式と南米の農業とYumiとMarkのリア充英会話をひたすら聴き続けた。
圧倒的受け身。
やる気は皆無。
五月病とはこのことか。
午後から雲が多くなり、帰る頃にはしとしとと雨が降り始め、僕は暗澹たる気持ちになっていた。
ゴールデンウィーク明けということもあり、気だるさは最高潮に達していた。意識は朦朧とし、信号が赤なのか青なのか七色なのか、よくわからなくなっていた。
通行人はみなYumiとMarkに見える。高架下の落書きが、うっかりするとトリニトロトルエンに見える。道に生えている雑草がアルファルファに見える。この世がワイドコンバージョンレンズのように歪んでいた。
白目によだれを垂らしながら僕はバスに乗り込み、そのまま知らず知らずのうちに海へとやってきた。
本降りになって傘の必要性が増してきた。近くにあったセブンイレブンでビニール傘を購入し、ふらふらと歩きながら浜辺へと降り立った。
ベンチには誰も居なかった。
座り込んで一息つくと、どっと疲れが押し寄せてきた。一体何をやっているのだろうか。僕は主人公でもなんでもないのだから、さっさと家に帰って明日の宿題を終わらせなければならない。
「彼女ほしい」
こんな時、ライトノベルのような運命的な出会いがあってほしかった。すべてを吹き飛ばしてくれるような事件が起きてほしかった。
しかし何もないし、望んでもいない。
そう望んでもいないのだ。
僕は普通のありがたさをわかっているつもりだった。主人公は主人公になりたがるが、僕は別に主人公になりたいわけではない。そんな図々しいことは思っちゃいない。
疑っているな疑っているな!
僕だって何かの主人公になりたいとは思う。しかし仮に何かの主人公になったとして、その責任を果たせるか。
否。
僕は主人公になるための度胸もない。人に激昂できるほど熱い魂を持っているわけでもない。女の子に気を使うこともできない。かといってニヒル気取って友達を遠ざけることもない。すべてがうまい具合にいっている。僕が小学生中学生で身につけてきた他人との関わり方、事象との関わり方がこれまたうまーいこと距離を保っていてすごく居心地がいい。
だから何も望んでいない。
ごめん嘘。
いや与えられたらなんとかするかもしれないけど、僕はしがない一高校生だ。童貞無双の男子高校生だ。何も出来ない。何もしたくない。このままこの雨に打たれ続けながらツイッターで友人と絡みながらのほほほほほんと過ごしたい。ああ、なんだかスタバでキャラメルフラペチーノ飲みたい。ドヤりたい。
ボスッ。
頭上から巻物が落ちてきた。
僕は思わず「まきものっ」と叫んだ。本当は痛いと言うつもりだったのだが、眠気のせいで判断が鈍った。ていうかまきものって咄嗟に叫べるのだなと、僕は感動しかけた。
「どうもー。五月少女ですー」
振り返れば、なんかとんでもないことが起きていた。