花巻にくらしたい
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そろそろ花巻のことを書こうと思います。
この一年でいろいろなことがあり、12月上旬の先週に、岩手県花巻での調査基地として2020年12月から2年間借りてきた農家を出て、その前に使っていた部屋に戻りました。戻ったところは部屋と言っていいのか、半分別棟になっていて独立した家みたいになっている、呼び方が難しい「部屋」です。今日、これまでくらした農家の掃除を終えて、最後の荷物も運び出し、家と倉庫に「2年間ありがとう」とお礼を言ってきました。寂しかったかな、やっぱり。
この農家を出ることになったのは、ぼくに家を貸してくださっていた方がこの春に病気のために亡くなったからです。その息子さんや親戚の方たちも、この大きな家と土地を相続放棄されることになりました。息子さんも孫にあたる方も「農家をやるつもりは無いし、花巻にくらすつもりはない」というはっきりおっしゃっていました。息子さんからは、ぼくに家と土地を譲りたいというお話しがあったのですが、ウシロガミ引かれる思いで、お断りしました。
断った理由は、先立つものが準備できていなかったからとも言えます。でも、いちばんの理由は、ぼくの覚悟ができていなかったことだと思っています。この家と土地を買うということは、こちらに今まで以上に長い時間、あるいは近い将来こちらに移り住む可能性が高くなると、ぼくも周りの人も考えています。そして、その覚悟をもつことができませんでした。
この2年間、建てられて80年以上経つ東北の農家にくらすのは、何とかなるという手応えはあった一方で、やはり楽ではありませんでした。
四国で生まれて育ったぼくにとっては、冬の寒さがもっとも大きなイベントだったでしょうか。台所すべてが凍るので、冷蔵庫に入れて凍結防止につかうという経験は、読んだことはありましたが、ぼくにとっては人生初でした。吹雪の中で命の危険を感じたことも一度だけではありません。視界が1メートルもなくなり、油断すると本当にどちらへ歩けばいいのか分からなくなります。地元の人が吹雪のときに出歩かない理由を身をもって学びました。
花巻にいるあいだにブログをかく余裕がなくなったことも、珈琲を淹れる回数がめっきり減ったのも、この農家に移ってからだと自覚していました。
室内の掃除も少なくありませんが、それ以外にも庭や敷地、農道の草刈り、家の中のネズミ退治やダニ退治にカビ対策、風呂場や寝室にもやってくるヘビ対策。そして、いろいろなものが壊れつづけます。水道や照明、換気装置などの修理にも詳しくなりました。ぼくとしてはその場その場では愉しんでいる感覚もあるのですが、やはりもうそれで精一杯のところがありました。やりたい野外調査にたくさん時間をとりたいですし。
その苦労を、これから何10年も同じように笑ってやり過ごすことができるか、その苦労を彼女にも背負わせていいのか、といったことを考えつづけた一年でした。いや、今もさ迷い歩いている感覚です。
でも結論から言うと、ぼくはやっぱりこの花巻が好きで、できれば住みたいと思っています。ここに根をおろして、くらしていきたいと思っています。ここでやりたいことがあるからです。
でもそれは、今の気もちであり、本当に一生そうなのかどうかは、もちろん分かりません。そして、彼女の将来の夢と彼女が今まで神奈川や東京の島嶼地域で築いてきたものを大切にしたいとも思っています。故郷にいるぼくの家族のこともあります。
日本という国では、とくに年齢が50才を越えると、住む場所を変えるとか、仕事を変えるとかいったことにはまだまだエネルギーが必要で、それを軽々やっている人ってスゴイなと、改めて思っています。
さて、これから自分がどうするか、やせ我慢に聞こえるかもしれませんが、愉しみながら決めて行きたいと思っています。
(December 12, 2022)