エフェメラ
表現が揮発すること
エフェメラ(ephemera)は一時的な筆記物および印刷物で、長期的に使われたり保存されることを意図していないものを指す。しばしば収集の対象となり、その例としてはしおり、グリーティングカード、手紙、写真、葉書、ポスター、チケット、パンフレット、チラシ、マッチ箱などが挙げられる。
作品を残させない
ゴードン・マッタ・クラーク
すなわち、歴史の中に組み入れられることを目的とするのであればワンアイデアで構成するのは強い戦略です。もちろん、これらの作品群が戦略的にそうしているかどうかは明らかではないですし、それは同時代に存在した「残らなかった側の作品群」を含めた空気を知っている制作者がかろうじて嗅ぎ取れる類の匂いです。歴史を参照した上でアップデートを試みる行為そのものは賞賛されるべきことで、大いに取り組むべき課題でしょう。一方で、そのこと自体の素晴らしさと、歴史に残りやすくするために表現をコントロールすることは分離するべき事柄です。
最後に、すべての制作者が「歴史に連なりたい」「未来への礎になりたい」という欲求を持っている、またはそれが善いことである、という前提はいささか慎重さに欠けるという指摘をする必要があります。最終的ににそうした欲求を持たない、あるいは「連なりたくないもの」はアーカイブを拒絶しながら退場し、文化の構成員ではなくなるでしょう。しかし、彼らは意思に反して蒸留されます。そして蒸留されてなおも、薄弱な繁殖欲求と権威からの逃避欲求が独特のトーンを帯びて自身に組み込まれているという実感があります。この「連なりたくない」という社会的営みと矛盾する願いは「蒸留されて多くを散逸する」という形でのみ部分的に成就可能です。散逸したいという願いに対しての散逸を押し止めるあらゆるアプローチは敵対行為になってしまいますが、この価値観が確かに存在することそのものを伝えるのが、我々が辛うじて出来る向き合い方であると考えています。