霧髭伝説
リムサ・ロミンサの歴史上、虫食いのように何度も登場する大海賊がいる。西ラノシアのシェルダレー諸島の一角に濃い霧が立ちこめることで知られる「魔の海域」」を根城とし、「断罪党」と並び、人々を震え上がらせていた大海賊「霧髭」だ。
だが各地に年代不明で残る霧髭に関する逸話や伝説を精査し時系列に並べていくとこの霧髭が異常に長寿であることに気付く。実はこの「霧髭」というのは1人の海賊の名前ではない。代々受け継がれてきた称号のようなもので、すべての海賊たちから一目置かれるようなると「霧髭」と呼ばれるようになるのだという。代々伝わる「霧髭」がみな鉄仮面をかぶり正体を隠していたのは「霧髭」の代替わりを隠し、その称号の持つ神秘性やカリスマ性を守っていくためであると思われる。
現在リムサ・ロミンサの提督メルウィブの副官を務めるエインザル大甲将本人が明かしたところによると、彼は最後の「霧髭」であったのだという。第七霊災の影響により特定の条件が整った時に「魔の海域」に立ちこめる濃い霧が晴れるようになってしまい、朽ち果てた霧髭の海賊船「ハール号」を発見されてしまった際、「霧髭の仮面」の悪用を恐れたエインザルは、その「ハール号」に残されている鉄仮面を収めた「霧髭の金箱」の回収を冒険者に依頼したことがあった。本人の弁の通り彼が霧髭であったことは恐らく間違いない。
彼が語ったところによれば、いまから半西紀(50年ほど)前に、「シルバーサンド一家」と「霧髭海賊団」とがブラッドショア沖(現在のコスタ・デル・ソル沖)で大海戦を演じたことがあった。この大海戦で、双方合計でガレアス船7隻、中小の艦も含めれば二桁をくだらない数の船が激突。約半数になる4隻のガレアス船が轟沈し数百名規模の船員たちが、海に散った。海岸には大量の海賊たちの骸が打ち上げられ、波打ち際が血で染まったためブラッドショア(血塗れ海岸)と呼ばれるようになったという。余談だが、その後長らく不毛の地であったブラッドショアは、メルウィブ提督の植民政策により大富豪であるゲゲルジュが買い取り再開発し、現在では一大リゾート地「コスタ・デル・ソル」となっている。
エインザルはこの時の反省を元に、「海賊の時代を終わらせ他の都市と手を取り合っていくべきである」という理想を掲げた「シルバーサンド一家」の頭領の娘であったメルウィブに従うことにしたのである。
先代のウルダハ王の婚礼の際に各都市からの祝儀を船ごと奪ったあと、海賊「霧髭一味」は忽然と消息を絶った。その後、元霧髭エインザルの協力を得たメルウィブはリムサ・ロミンサの提督となり、それ以来エインザルはメルウィブの副官を務めている。また現在メルウィブが使用している名銃「デスペナルティ」と「アナイアレイター」はこのエインザルが贈ったものであるという。
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