ハーストミルの厄災
黒衣森北部にハーストミルという小さな村が在る。ハーストミルは敵対するイクサル族の政略圏に近く小競り合いの絶えない地域なため神勇隊が駐屯していた。イクサル族は元々は黒衣森の住民で会ったのだが精霊の意に反してその領土を広げようとしたため、精霊の怒りに触れ、森を追い出されゼルファトル渓谷へと追い込まれたという過去がある。その後、地下都市ゲルモアで暮らしていた人族が精霊の許しを得て黒衣森の住人となったわけだが、追い出されたイクサル族としては人族に自分たちの領地を奪われたような形となり、面白いわけがない。実際の所は精霊の許しなく黒衣森に住むことは出来ない事はイクサル族も理解はしているのだが、収まりのつかないイクサル族は人族に逆恨みともいえる戦いを挑んでいた。そして第六星暦末期、遂にイクサル族が大きく仕掛けてくることとなる。
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その日、ハーストミルのある黒衣森北部は星が降ってくるように見えるほど澄み切った快晴の夜だった。丁度収穫祭が行われていた村の中心には多くの人が集まっていた。祭りも佳境に差し掛かった頃、突然経験したこともないような強い突風が吹き荒れ、渦巻いた。人々は舞い散る砂埃から守るため目をつぶった。そして再び目を開いた時、目の前に異形の者が居た。体系は人型で女性のよう、四枚の翼を持ち、刃物のように鋭い猛禽類のような手足と鋭く長い爪を持つ彼女はニヤッと笑うと駒を回すかのように腕を振った。たったそれだけであったが、彼女が興した風は次第に強くなり、暴風となって広場に集まった人たちを飲み込んだ。それは残虐で無慈悲だった。
ハーストミルは神勇隊の駐屯小屋を中心に破壊され、風により飛ばされてきた材料により、ある者は叩き飛ばされ、ある者は飛んできた建物の破片に押しつぶされ、ある者は破片に胸や顔や腕を貫かれ、またある者は空高くまで風に運ばれ、そのまま落下して命を落とした。村は一瞬で阿鼻叫喚となった。結果としてハーストミルはその家屋の殆どを吹き飛ばされ、約半数に及ぶ住民を失い、駐屯していた神勇隊は住民の盾になろうと必死になって対応したが隊員の9割が死亡するという壊滅的大惨事となった。
この事件は人憎しの感情に捕らわれたイクサル族が信仰する嵐神ガルーダを召喚し引き起こしたテロ行為であることはほぼ間違いないが、とにかく証拠となるものが皆無であり、イクサルが主犯であると明確に断定するには至らなかった。それ故、双蛇党本部に残る報告書には「嵐神ガルーダ襲撃の理由は定かではない」という記載が成されている。
歴史や史跡の旅~Chronicle Encyclopaedia~