テンゼンの鬼退治
東方地方、具体的にはヤンサ平原東部からひんがしの国に及ぶ地方に伝わる有名なお伽話がある。悪行の限りを尽くす鬼を帝の命を受けた侍「テンゼン」が類稀なる力を持つ「四聖獣」と呼ばれる獣たちをお供にして、見事に鬼退治を成し遂げるという内容の話である。お伽噺として内容は少し変えられてはいるものの、これは実話をベースにして語り継がれた話だった。
テンゼンはあらゆる生命の声を聞くことができる、特別な力を持っていて、一説では星の声と語り合うことすらできたという。その異能のせいで、周囲からは不気味がられ、同族からも忌み嫌われたテンゼンだったが、当の本人はそんなことまるで気にも留めなかったが、自分を不気味がる周囲に気を使ったのか、ある時テンゼンは困っている人々の助ける旅へと出た。
まず最初に出会ったのは白虎だった。ヤンサの地に生まれた白虎はその白い毛並みから禍の兆しと忌み嫌われ、同族からは爪弾きにされていた。山で孤独に生きた白虎だったが幸か不幸か類稀なる力を持っていたため、種の寿命を凌駕して百年の時を生き続けた。そこに現れたテンゼンの「俺たちは似た者同士だな」という言葉に心揺さぶられテンゼンと共に旅を始めることとなる。
次に出会ったのは炎を想起させる赤い羽毛を持ったがために鳳凰と間違われ人間に追い回されていた朱雀だった。朱雀の外見や風評に惑わされることなくありのままの朱雀を受け入れてくれたテンゼンに朱雀は心惹かれ、テンゼンと共に旅をする事を決意する。
そして最後に大蛇信仰に厚い島で神として崇められていたが、島に降りかかる禍の根源として扱われた青龍と出会った。テンゼンたちは島の女を生贄として求める悪しき大蛇の噂を聞きつけ、その討伐を引き受けて青龍の前に現れた。打ち倒された青龍はテンゼンの「何故?」という問いかけに対し真実を話した。生贄は禍を大蛇の怒りだと解釈した人間が勝手に進んで始めたこと、生贄を欲しない青龍は島の女をコッソリと島の外に逃がしていたこと、そういった今までのいきさつをテンゼン達に話して聞かせた。話を聞き終えたテンゼンは居場所を失った青龍に対して「一緒に来い」と言ったという。
そして、獣を連れて人助けの旅を続けている内に、いつしかテンゼンは、英雄と呼ばれるようになっていった。その噂は帝にまで届き、テンゼンに黄龍討伐の命が下った。
黄龍を探す旅の中で玄武と出会い、共に黄龍を討つべく仲間となった。そして黄龍を見つけたテンゼンは、四聖獣よりも強力な神通力を持つ黄龍を相手に、神刀「鳳凰丸」を手に勇敢に戦ったが力及ばず、最後は自らの命と引き換えに、黄龍を封印したのだった。
こうして紅玉海の危機を救ったテンゼンの活躍は、おとぎ話として、後の世に語り継がれるようになった。これが、俗に言う「テンゼンの鬼退治」の誕生秘話なのだ。
関連項目:四聖獣奇譚~Tale of the Four Holy Beasts~
歴史や史跡の旅~Chronicle Encyclopaedia~