ウルズの恵み
南部森林南東部にウルズの恵みと呼ばれる浅い池がある。この池の冷たく澄んだ水は、その最奥にあるウルズの泉と呼ばれる湧水池から流れて来ている。この場所は精霊の加護に包まれた黒衣森の中でも特に濃いエーテルに常に包まれていて他の場所とはその漂う空気からして違う。周囲にはクリスタルのような結晶がキラキラ光り幽玄的な風景が広がる。
「ウルズ」というのは第三星暦末期に記されたアラグの聖典に登場する聖女の名で、聖典によれば、当時多くの人の命を奪い悪神と恐れられていたオーディンの手により、聖女ウルズはこの場所で殺害されたのだと聖典には記されている。その後、悪神オーディンは、奇しくも聖女ウルズがその凶刃に倒れたこの場所でアラグの英雄に討たれ、ウルズの泉の奥にあるクリスタルへと封印されたのだという。
そして現在、その封印は第七霊災の影響によりクリスタルが破損したことで解けてしまい、愛馬スレイプニルに跨った悪神オーディンの姿が黒衣森で度々目撃されている。
しかし、封印を解かれたというのに、オーディンはなぜ森に留まっているのだろうか?
それにはこんな話がある。オーディンの姿を目撃した複数の者の話によるとオーディンは「…ウルズよ…いずこに……ウルズよ…そなたの元へ……ウルズよ…今度こそ…」と呟きながら森を彷徨っていたことを皆口をそろえて証言している。アラグ帝国の聖典では「悪神」とされ、「聖女ウルズを殺した」とされているオーディンだが、実際には「ウルズを探し求めて」いるようであり、聖典の記述が必ずしも正しくない可能性がある。
イシュガルド建国神話然り、歴史や伝承は時の権力者や関係者によって都合よく大きく歪められるのが常だ。ことアラグ帝国は他大陸に侵略戦争をしかけたり、英雄ティターンをリーダーとする民衆の反乱がおきたりと、その治世は決して穏やかなものではなかった。もしかするとオーディンとウルズは深い仲にあったのかもしれない。またはオーディンはアラグの圧政に対抗しようとしている者だったのかもしれない。本当に聖女を殺めたのはオーディンではなかったのかもしれない。だがすべては歴史の闇の中である。