B:坑道の吸血王バーバステル
おぞましい吸血蝙蝠、「バーバステル」は、「ブラインドアイアン坑道」のヌシともいえる存在だ。
「レッドルースター農場」の家畜が、干からびた変死体で発見された事件も、「バーバステル」による仕業だと考えられている。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「確かにあいつは吸血種なんだがな‥」
そう言うとレッドルースター農場のアナオクは首を傾げた。
なんだか様子がおかしい。
中央ラノシアから低地ラノシアのシダーウッド地区に抜けるブラインドアイアン坑道。
ラノシアでは珍しいこの坑道は、海産海運業を主な産業とするリムサ・ロミンサに採掘業が定着すれば対外貿易上も有利になるという単純な足し算的発想で開山され、一時はウルダハに負けじと付近が砂塵で見えなくなるほどの勢いで採掘作業が行われていたが、結局はすぐに鉄鉱石を掘り尽くしてしまい、今はただのトンネルとして利用されている。
そのブラインドアイアン坑道にバーバステルという巨大吸血蝙蝠が住み着いている。今回のターゲットはそいつだ。
坑道の主と呼ばれるこの蝙蝠は羽を広げると3m近くにもなり、吸血種という事も相まって見た目にも不気味だが人的被害はおろか家畜の被害すらなかったため長年放置されてきた。
黒渦団のモブハント担当官の話ではこの手配書の依頼主はシダーウッド地区の農産家でバーバステルに家畜を何度も襲われたという。さらにレッドルースター農場の家畜が何者かに襲われ全身の血液を吸われ干からびた姿で発見された件もバーバステルの仕業に間違いないと聞いて来たのだ。
ところが、実際にシダーウッド地区で聞き込みをしても依頼主は誰かも分からず、被害を訴える声もなく、さらに被害を受けたというレッドルースター農場の責任者に話を聞いてもこの調子なのだ。
「バーバステルの仕業じゃないと思ってます?」
腰に剣を下げた相棒がアナオクを覗き込むようにして聞いた。
「なんとも言いにくいですねぇ‥。確かにあいつは巨大だし、吸血蝙蝠ではあるんだがすごく臆病だし、奴が狙うのは野生の小動物くらいのもので、長年あの坑道に住み着いてはいるが人や家畜が襲われた話は聞いたことがないんですよ。誰が依頼を出したんだか…」
アナオクは少し困った顔をしてまた首を傾げて言った。
「レッドルースター農場の家畜が血を吸われて干からびて死んでたって聞いたんだけど」
あたしが口を挟んだ。するとアナオクは真顔でキョトンとした後、少し吹きだしながら笑った。
「あー、あの件ね。家の農場で飼育していた牛の話なんだが、どうやら採掘が盛んだったころに出来た穴に落ちてしまったらしくてね。それに誰も気づかなくて発見が遅れて、見つかった時には干からびてたって話ですよ」
そう言うと顔の前で「ないない」と手をひらひらさせた。, 「いや、考えても見てくださいよ。牛の血液は全身に50~60リットルあるんです。つまり全部飲んだら50~60㎏あるってことですよ。あの細い骨に薄い皮膜が付いただけの蝙蝠の羽で自分の体重の何倍にもなる重いものお腹に入れて飛べやしませんよ」
確かに。あたしたちは妙に納得してしまった。
更に酒場で聞いた話では近々、リムサ・ロミンサの高官がモラビー造船廟へ行くためにこの街道を通るらしい。
「これは…」
妙に合点がいった。
不気味なバーバステルを政府高官が目にすると何故退治させないのかとモブハント担当官の怠慢を指摘するだろう。被害報告がないとはいえ、巨大な吸血蝙蝠を放置したとなれば、これは担当官の大きな誹りを免れない。つまり、担当官の保身のためのモブハントだ。あたしたちは顔を見合わせて溜息をついた。