A:大蠍の家長ギルタブ
北部森林に跋扈するマイトたちの長、それが「ギルタブ」と呼ばれる魔物よ。コイツは新鮮な獲物を好むらしくてね……。
粘糸で絡め取った獣や人を、じっくり時間をかけ、生きたまま貪り喰う……という噂よ。
https://gyazo.com/5446c2e1a086522099ac32f36830ffaf
ショートショートエオルゼア冒険譚
フォールゴウトの「浮かぶコルク亭」の一室を神勇隊が借り上げ、神勇隊隊員とそのサポートとして雇用されたモブハンターで組織されたマイト討伐隊の拠点は喧騒に包まれていた。
どうもフォールゴウト北部の街道沿いで数が増え過ぎたマイトを間引きする作業を行っていた神勇隊にマイトの家長と呼ばれるAランクのリスキーモブであるギルタブが襲い掛かったのだという。
神勇隊の隊員たちは予想外の襲撃に蜘蛛の子を散らしたようにてんでバラバラに逃げ出しその大半は逃げきって拠点に戻ったが若手隊員の信望が厚い「親父さん」と呼ばれる年配の隊員が捕まってしまったらしい。
「あんた、親父さんを…、親父さんを助けてくれよ!」
神勇隊の若い隊員は熟練したハンターに縋り付いた。
「そうだよ、救助隊を組織しよう!マイトは食料を繭に閉じ込めて保存する習性がある。まだ生きてるさ、助けられる!」
若手の隊員たちはついさっき怯えた顔で拠点に駆け込んできたことも忘れて、意気高々に話している。
「君らも来てくれ!戦力は多いほど救出の成功率は高くなる!」
いつもは自分たちは選ばれた神勇隊の隊員だと冒険者やハンターを見下し、小馬鹿にした態度をとっているのに、という冷めた気持ちが湧いてしまう。
確かに、あたしとしてもその親父さんって人は助けてあげたい。親父さんと呼ばれるその人は高飛車な者の多い神勇隊にあって珍しく人を色眼鏡で見ない人で、面倒見もいい。博識で話も面白い。神勇隊の若手からの信望も厚く、短い付き合いだけどあたしも相方もどちらかと言えば好感をもっている人物ではある。
だが、なにせ運が悪い。「ギルタブに捕縛されたら運がなかったと諦めろ」というのは冒険者の間では定説なのだ。何故か?それは…。
あたしは熟練ハンターの方を見た。熟練ハンターは悲しそうな顔であたしの方を見ていたが、軽く首をふって言った。
「駄目だ。無理だ」
神勇隊の一団が「何故だっ」といきり立ってざわつく。
「マイトは捕えた獲物を繭に閉じ込めてゆっくり食う。今助けに行けばまだ間に合うはずだ!」
若い隊員は殆ど泣き声で訴えた。
「いや、それは普通のマイトの話だ‥。」
熟練のハンターは首をうなだれ、左右に振りながら悲痛な表情で言った。
「ギルタブは新鮮な獲物を好む。」
彼は重く静かに続けた。
「ギルタブは吐き出した糸で獲物の自由を奪うとすぐに食事を始めるんだ、なるべく新鮮なまま味わうためにな。まず獲物がすぐに死んでしまわないように手や足から先に喰らう。次に体の表面を剥ぐように食べる。それもすぐは死なないように少しずつ。命に影響のないような部分から啄んでいく。最終的には骨も残さない。ギルタブに捕まったら地獄が待っている」
さっきまで意気軒高だった若手の神勇隊員たちは、今は呼吸音も聞こえない程静まり返っている。
ふぅっと息を吐いてあたしは椅子から立ち上がり、愛用のロッドを背中に背負った。
「どこに…いくんだ?」
蒼白になった神勇隊員はあたしを見上げて聞いた。
あたしは無意識だったが、たぶん少し呆れた顔をしてしまったかもしれない。
「あなた達の仕事って何?特定の誰かを助ける事なの?助けられるかどうかに関係なく、そんな化け物野放しに出来ないでしょ?」