超電導
#用語解説
https://gyazo.com/54f6dbefc41fab3d2f44d8d7c73900c6
http://www.istec.or.jp/description/description.html
chatGPT.icon
超電導(ちょうでんどう)とは、ある種の物質が特定の低温領域になると電気抵抗が完全にゼロになり、さらにマイスナー効果という磁場を排斥する性質も示す現象を指します。これらは日常で見られる通常の電気伝導とはまったく異なる、量子力学的な不思議な振る舞いです。
そもそも電気抵抗とは?
電気抵抗:電流(電子の流れ)が物質中を動くときに受ける“通りにくさ”の指標。
金属(銅など)の内部では、自由電子がイオン格子(原子核とその周りの電子が固まって結晶構造を作ったもの)にぶつかったり、格子の振動に散乱されたりしてエネルギーを失い、電流の流れが阻害されます。これが抵抗の原因。
抵抗を測るときは、その金属を流れる電流と加えている電圧の関係(オームの法則など)で決まります。
通常の金属は温度が下がるとイオン格子の振動(熱振動)が小さくなるため、抵抗値が減って電気が流れやすくなります。しかし、絶対零度(-273.15℃)に近づけても完全に0にはならず、何かしら小さな値を持ち続けます。
超電導の不思議──「抵抗がゼロになる」
ある種の物質(例えば水銀や鉛、ニオブなど)は、臨界温度と呼ばれるある温度以下になると、突然電気抵抗が完全にゼロになります。この現象を超電導(Superconductivity)といいます。
臨界温度:その物質が超電導状態へ移り変わる温度。物質ごとに異なり、高温超電導体などではマイナス196℃(液体窒素温度)近辺でも超電導になるものも存在します。
抵抗がゼロになるということは、たとえば輪っか状の超電導体に一度電流を流し始めると、電流は理論上永久に流れ続ける、という驚くべき性質を意味します。
マイスナー効果──磁場を押しのける
超電導体には、マイスナー効果というもう一つの重要な特徴があります。超電導状態になると、物質内部の磁場を排斥(シャットアウト)する傾向を示します。
具体的には、超電導状態の物質内部では磁力線を通そうとしないため、外から磁石を近づけると磁場が反発して磁石が浮くように見える現象(磁気浮上)が起きます。
リニアモーターカーなどは、このような超電導の磁気浮上効果を利用する技術の一例といえます。
どうして超電導になるのか?──BCS理論とクーパー対
超電導のメカニズムを初めて理論的に説明したのが、1957年に発表されたBCS理論(Bardeen, Cooper, Schriefferの頭文字から命名)です。
金属中の電子とイオン格子の相互作用
金属では「自由電子」がイオン格子の間を移動して電流を担っています。
普通は電子同士が反発(クーロン斥力)し合うので、ペアを組むイメージはなかなか湧きません。
クーパー対(Cooper Pair)
ところが極低温では、イオン格子の振動がとても小さい状況になります。
その際、電子がイオン格子をわずかに歪ませると、歪んだ格子が次に来る電子を引き寄せる──という間接的な引力のような効果が生まれることがあります。
これによって2つの電子が一時的に“ペア”を組む現象が起きます。これをクーパー対と呼びます。
電子2つがペアを組んでできた「クーパー対」は、単独の電子とは異なる量子状態をとり、金属内部を散乱されにくい形で滑らかに移動できるようになります。結果として、電気抵抗がゼロになるわけです。
量子力学的な性質
超電導を理解するには、「クーパー対」や「マクロな量子状態」など量子力学固有の現象を考える必要があります。
マクロな量子状態:多数のクーパー対(ペア電子群)が同じ量子状態に“協調的に”存在するようになり、いわば巨大なひとつの波のように動く。
そのため、少々の不純物や格子振動では、この集団の動きを簡単には乱せなくなる。結果として抵抗ゼロという性質につながる。
こうしたメカニズムはあくまで「低温超電導体」と呼ばれる金属系での理論(BCS理論)ですが、高温超電導体(銅酸化物系など)ではもう少し複雑なしくみが提案されています。しかし、いずれも“電子ペア”が重要な役割を果たすことは共通点です。
超電導の応用例
MRI(磁気共鳴画像装置)
超電導コイルを使うことで強力かつ安定した磁場を維持でき、体内の診断画像を得るのに使われる。
リニアモーターカー
超電導磁石による強力な磁気浮上を利用し、高速かつ摩擦抵抗の少ない移動手段を実現。
量子ビット(量子コンピュータ)
ジョセフソン接合など超電導素子を使った量子ビットが研究されている。
超高感度センサー
微弱な磁気を測定するSQUID(超伝導量子干渉計)などがある。
核融合のコイル
プラズマを閉じ込めるのに使われている
まとめ
超電導(Superconductivity)とは:
温度を下げたとき、ある臨界温度以下で物質が電気抵抗ゼロになる。
マイスナー効果により磁場を排斥する。
しくみの鍵は:
電子が「クーパー対」を形成し、散乱されにくい“マクロな量子状態”を作る。
応用:MRIやリニアモーターカー、量子コンピュータなど多岐にわたる。
身近な金属でも極低温にすることで起き得る現象ではありますが、臨界温度が非常に低いものが多いため、実用には極低温(液体ヘリウムなどで冷却)環境が必要でした。近年では比較的高い温度で超電導になる「高温超電導体」が発見され、液体窒素(-196℃)程度でも超電導が可能な物質が見つかっています。今後も、常温に近い温度で超電導を示す物質の探究は、エネルギー損失のない送電や新たな電子機器の開発など、技術革新をもたらす夢の分野として大いに期待されています。
さらに学びたい方へ
BCS理論に関する入門書や解説動画をチェックする
低温物理学や固体物理学の基礎を学ぶ
高温超電導(HTS)磁石に関する最新の研究動向をニュースなどで追う