研究入門:福田研
考え方編
巨人の肩に立つ
すでにある知識に乗っかる
学術論文の機能のイメージ
博士 > 修士 > 学士
Bachelar Degree(学士)では周縁に近づいていけたら上等
とにかくたくさん読む、考える、書く、人と会う、議論する、聞く、人と仕事する、で深めていく他なし
ゼミや大学生活に限らず、そう
まずはゼミでちゃんと議論しよう、話す相手を作ろう
書くのはすごく大事
インプットだけではだめ、書くために読むべし
書いたりいいアウトプットしてないと安く見られる、イミテーションを掴まされる
アウトプットの意義
学士の専門や卒業論文は日本では軽視されがち
今と昔の大学は全く変わってきている、でも社会にいる元大学生は古い大学観が残っているのかもしれない(特に年上の方ほど...)
アメリカは学費が日本より何倍も高く真剣度が違う、日本は国際的にみると安すぎでそのため安く見られてる面もある
アウトプットは重要である、同時にそれだけでなくその経過で得る能力やネットワークや気づきや文書作成能力や調査能力や文献読解力が財産になる
あなたの人生を決定づけるキーコンポーネントになる、本来、学位と関係ない就職することは不可解
そこまで関係しない仕事に就いたとしても結局関連してくる
研究は文書作成の王様、良い論文がかければいい文書が書けるようになる
例えばゲームのいい企画書が書ける!
文書作成はホワイトカラーの本来的業務のひとつ
e.g. 企画書、仕様書、報告書、マニュアル...
良いアウトプットのためには、早くから少しづつでも書き始める
発表で書く途中経過も本文に組み込む気持ちで書くこと
テーマ決め編
まずはやりたい研究分野か対象を決めることからスタートしよう
続けることが最も重要
そのためモチベーションを抱ける対象を選ぶべき
教員などが進めるプロジェクトに参加してそこでテーマを見つけることも良い方法
テーマは自分がやりたいことだけでは成り立たない。先行研究から生成する、つまり論点や課題を先行研究群の中に見つけ出す観点が求められる
実際に行われ公開された研究があるとすれば、そのやりなおしは研究として成立しない(前述の車輪の再発明より)
テーマは狭く狭く設定することが有効
狭い一つのトピックに落とし込めると、まとまった意味ある研究にできる可能性が圧倒的に高まる
広く薄い研究よりも狭く深い研究のほうがよい
専門を明確にして同時にそれを喧伝することで競争力が得られる、また結果得られた仕事を成し遂げることでより専門が強化されるというフィードバックループを成立させることが肝要
スコープが広い抽象的なテーマを成立させるためにはとても時間がかかる
ほぼ全員の今の力量では成り立たない、そもそも研究として成り立たない
一つの目的・問い・仮説に落とし込んでいく過程が必要
また、短い研究期間のうちに成立させうる研究にする
最初に考えるものより2段階か3段階、絞り込むようなイメージで
そんな狭いことやりたくないよと感じられるかもしれないが、狭いことは「含意」で大きなことに接続できる
含意(Implication)は結論から得られる意味付けや展望
その研究の最後の方に書くべき、その研究で明らかになった結果からどんなことが言えるのかということ
含意は論文の醍醐味、これを書くために論文書いているようなもの = いいたいことに接続してしまえば良い
先行研究探す編
先行研究は多いほど良い、関連文献が多いほど良い
分野の事典やガイドブックは役立つ場合が多いのでまずはそこから
文献検索
文献の検索はとても研究が進んでいる -> 図書館情報学
使いやすいサービスの例
検索はキーワード次第だが、そのキーワード言い換えると概念/専門用語を知らない事が多い、また類義語・言い換えも多い -> 結局文献検索は難しい
やはり英語文献を読まないと話にならない場合がほとんど
逆に言い訳がなくなったとも言える
ただし様々な手段で得られたバラバラな論文を有機的につなげることは簡単でない
論文に記される参考文献リストはとても参考になる
引用され具合によりどのような研究が注目されているのか、なども明らかに
文献レビューを主題とした論文ではとりわけ参考文献表が役に立つ
図書館の中にあるリファレンスカウンターを活用しよう
司書が文献調査の相談を受け情報提供してくれるサービス
本を読むより論文を読もう
本は面白いしそこにしかない知識も事実として膨大であるが、基本的に内容の審査は経ておらずその信頼性は検討されていない
使える本を探すところに時間がかかるし、内容を読むのにも時間がかかるし、RTA(リアルタイムアタック)には不向き
論文を読むことで、論文の書き方も学べる
論文の種類はいくつかある:
原著論文 - 学術誌(Journal)に掲載される査読により審査を経た独創的な新しい知見を含む論文、いわゆる「論文」であり信頼性が高い
総説論文 - 学術誌(Journal)に掲載される状況をレビューする論文
会議論文(会議録) - 会議録(Conference Proceedings)に掲載される大会の発表に伴い提出する論文、学会や大会によって条件と質が異なる
学位論文(博士論文・修士論文) - 学位発行機関により発行される修士や博士の学位取得のための論文、とりわけ博士論文は複数の論文の集合でありサーベイが厚い場合が多い
そのほかに研究ノート、技術報告、短報など、論文でないが学術記事に含まれる種別もある。
基本的には念入りに文献調査したとしても、最初だけでは終わらないと考えた方が良い。
論文書きながらでも、結局のところ文献は見つかるし、後半でも研究に組み込んでいくつもりで進めよう。
文献アクセス編
オープンアクセス(OA)なら楽勝
Google ScholarやCiNiiなどから
DOI: URL型のID)デジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier: DOI) 、リソースにアクセスするためのURLとURI(doi)がペアになって管理されている
大学からアクセスできるデータベースなど
図書館になければリファレンスカウンターへ、情報提供以外に外部図書館の資料取り寄せなども担当している(大体これでケリはつく)
案外その分野の先生なら持ってる場合もあるし、聞いてみても良い
カーリルなどで調べてみると公立図書館の蔵書にもアクセスできる CiNiiでは他の大学図書館の所蔵も知れる = 図書館間貸出(Interlibrary Loan: ILL)の制度を活用する
本当の最終手段はコピーのページもわからない場合は国会図書館現地行く
文献管理編
人はすぐ忘れる、文献情報はとくに。
道具やメディアは人間の拡張された身体であり、PCの記憶デバイスは拡張された脳
文献管理ソフトを使って管理しよう
管理していれば、論文執筆最後の作業である参考文献リスト作成が一瞬で終わる
つまり文献管理ソフトへのデータ登録も論文執筆の一部
文献管理ソフトもいろいろ
オープンソースで無料
デジタル人文学(Digital Humanities: DH)のコミュニティで開発された文献管理ソフト
Google ScholarでもCiNiiでもBibTeX(びぶてふ)やRISといった文献記述形式で出力可能
文献管理ソフトには、BibTeXをコピペしてCommand+Shift+Option+I(Zoteroの場合)で簡易に追加できるなど、複数の登録手段がある
論文構成編
論文の構成は大雑把には決まっている、以下の通り:
序論
問題意識と研究の背景
先行研究
研究の目的
研究方法
方法と材料
結果と考察
結果の記述(結果と解釈を混ぜて論じてはいけない)
結果の解釈
結論
序論に翻りつつ学術的示唆/社会的示唆を示す
今後やるべきこと(Future Works)と課題
参考文献
論文の種別によってはこの構成にならないこともあるが、基本的にはこの構成をリスペクトしよう。
何なら見出しは上の構成の通りで良い。
方法論編
方法論は様々
基本的には、対象の分野の先行研究で採用されている方法論を選択しよう
もちろん必要に応じて他の分野の方法論を持ち込む事もできる
社会科学の観点では、大雑把には「量的研究」「質的研究」に分けられる
量的研究:仮説検証に向いている。質問票調査、構造化面接
質的研究:仮説生成に向いている。フィールドワーク、ケーススタディ、非構造化面接など
テキストマイニングなどといった一部の方法論は量的・質的両方の特徴を持つ
情報学の観点では前述の社会科学の方法論以外に、データセット生成、タクソノミー開発、データモデリング、サービス開発などもある
それ以外にも、文献調査や歴史学的アプローチや哲学的アプローチなど様々
大量のデータを分析するならプログラミングを勉強することとできることが増える
大量データ収集もプログラミングでできるかも(ウェブなどで公開される場合)
場合によっては専用ソフトで代替できることも
引用編
引用は良いこと
引用とは自分の創作物に他の創作物からその一部をそのまま示すこと
引用の4要件 - 著作権法による
公表された著作物が対象、公正な慣行に合致(引用の形式が適切)、研究等目的のための正当な範囲、出典の明記
何が良いか:
他の関連研究を具体的に示すことができる
自身の議論を相対化できる
自身の議論と他者の議論を明確に区別できる
引用の形式には2種類:
小部分(1~2行程度)の引用ならカギ括弧(「」)で引用部を示す
e.g. アーカイブは「利用可能な知の蓄積[2]」などとも定義されるが、...
大部分の引用ならインデントで引用部を示す
引用せず他の人が書いた文章を使うことは「剽窃」であり、罰せられる可能性がある、生成AIの生成した文章の転用も同じことと判断される可能性がある
なにより、自分と他人の議論をないまぜにすることは良くない、他の研究と区別できていない状態
注釈編
注釈とは文章や専門用語についての説明や補足であり、本文と番号などで紐づけられ別途記述される。
注釈をつける論文スタイルもあるし、つけないで本文ですべて書く論文スタイルもある。
人文系は注釈がつけられる場合が多いか
同一ページ末で示す「脚注」と文章の最後にまとめて示す「文末脚注」がある。
場合によっては文末脚注と参考文献をまとめる形式もある。
同文書内の参考資料でリストに挙げられる文献であれば、文献注をつけて簡易に示そう。これは注釈と違い参考資料と紐づけられる。
e.g. (細井 2019, 5), (Smith 2016, 315–16)
採用するスタイルにより表記法は異なる。
生成AI利用編
生成AIは使うと良い...が、使い方に注意
最新分野は幻覚(Hallucination)が起こる場合は多いので信頼できない
ChatGPTなどのLLMはテキストの出典を示すことができない(何を元にしているかわからない)
「ChatGPTは間違いを犯すことがあります。重要な情報は確認をお考えください。」と書いてる
生成系AIに本文書かすのはNG
読むとわかってしまう、モロに使ってると単位認定できず留年になる...
嘘も多いし、何を参照してるかわからないし(これはChatGPTの根本的性質に依るものであり学術文書では致命的欠陥)、文面盗用による著作権法上のリスクや盗用・剽窃による倫理上のリスクもある
今はリベンジ社会なので傷を後からほじくり返されるかもしれない
つまりうまく騙し騙し卒業できた!と思ったら「STAP細胞はあります!」 → 学位取り消し、社会的抹殺というリスクも
一方、相談や壁打ちは生成AIにいくらやってもいい
ドキュメントの作り方編
論文を構成する要素の種別は基本的に以下で成り立つ。
タイトル(Title)
本文(Paragraph)
見出し(Heading)
見出しにも複数の段階(Headings 1 > Headings 2 > Headings 3...)
リスト(List)
番号付きリスト
番号無しリスト
図(Figure)
表(Table)
参考文献(References)
注釈
文書内の構造はデータ的にも反映されなければならない
本文の一部のフォントサイズを大きくして太字にして見出しにする、とかは良くない
上記の要素種別事にスタイルをマークアップして構造化する
書くためのソフトや技術
WYSWYG(印刷するものと見るものが一緒の状態:What you see is what you get)は最後でいい
MS Word: 広く使われている。でも機能が多すぎて細かい調整をしながら文書を作成するのは不得手。ただし、最終稿作成で有用。
Markdown: 軽量マークアップ言語。論文書くだけなら十分とも言える。Markdown対応のDropbox Paperはモバイルでも書けるし学生におすすめ。 TeX: 組版処理システム。論文用マークアップで数式に強いため理系の研究者に好まれる。
スタイルガイドは国際的に非常に重視される、形から入ることは文書づくりでは不可欠
論文書き方心得編
まずは構成を先に明確にしてから書こう
ただし構成は必要に応じて微修正しても良い(あくまで微修正)
書くのは時間がかかる
特に慣れていないとすごく時間がかかる
どれくらいかかるかは人それぞれだが、多分論文書くのが仕事の人の3倍、それ以上にかかるかもしれない
書くのは最初から順番に...ではない
書きやすいところ、なんなら書きたいところから書こう
読むように書くのではなく、各部分をちょっとずつちょっとずつ書こう
早めに取り掛かる
仕事でも何でも、取り掛かりが遅くなればなるほどクオリティは下がる傾向にある
ギリギリになってバタバタするのは学生まで>卒論の作成の前にそんなことからは卒業しよう
〆切の2ヶ月前には8〜9割書いておいて、ちょっと置いてから完成させる
ファイルはDropboxやOneDriveやGitHubなどでクラウドにいちいち保存する
パソコンは締め切り前によく壊れる
バックアップしておく、また古いバージョンも保存されており巻き戻る事もできる
書いたものを人に見せる
長文を書くのに慣れてない人は、入り込んでしまって客観的な評価ができなくなってしまう
教員に見せてもいいし、友達やゼミ生に見せてもいいし、家族に見せてもいい
使えるものは何でも動員して仕上げよう
まとめ編
色々言っても実際はなかなか実践できない
できなくてもやろうとする気持ちを維持する。そうしていれば、時間はかかるけど最終的にはいっちょ前になれる。