飲酒について
私は20代の頃はちっとも酒が好きではなかったが、30代になってから以前より(好んで)飲めるようになった。
これは味覚の変化もあるだろうが、そもそも普通の飲み物とは違う、酒特有の飲み方のコードが理解できるようになったからの方が大きいように思う。
よくビールの苦手な人が飲める人から言われがちなアドバイスとして、「これは喉越しを楽しむものなのだからあまり舌に乗せて飲まないほうが良い」みたいなことがある。これが私は理解できなかった。
なぜなら「あまり舌に乗せない方が良い」ということは、本当は不味いということではないかと思っていたからだ(「お前らほんとは好きじゃないだろそれ」と)。
ワインや日本酒について「ちびちび飲むほうが良い」といった言明も同様で、「ちびちび飲まないといけない」ということはつまり不味いということではないか、と感じ続けていた。
仮にそれで飲めたからと言ってそれを「好き」にカウントすることの意味がわからなかった。
小学校の給食で、牛乳を苦手な子が鼻をつまむことで牛乳を飲みきるという状況を見たことがあるが、ちびちび飲むという行為がそうした「嫌いなものを飲み込むための工夫」と何が違うのかが分からなかった。
どうも私は味覚の変化(あるいは成熟)によって酒を克服したと言うより、
こういう問いをだんだん感じなくなることによって克服したということになる(これを「克服」と呼んでよいのならだが)。
あるいは味覚自体はそのままで、「美味しい」という言葉の定義が変化したことによってそれを美味しいにカウントして良いと感じるようになったと言えるかもしれない。
乱暴に言えば鈍感になることで好きになったとさえ言えるが、ひょっとすると今後どんどんそのようにして色んなものを好きになれるのかもしれない。それは「良いこと」なのか?