NOPE /ノープ
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目次
ネタバレなしの紹介
ネタバレ有りのメモ書き
ネタバレなしの紹介
お化けとか露骨なグロ描写とかが出てくるわけではないけれど、それでも粛々と恐ろしいタイプのホラー映画(ホラーと呼ぶとイメージが伝わらない。ジャンルはホラーでいいんだろうか?コメディにも見えるしアドベンチャーとか西部劇にも見える。ホラーが苦手な自分でも楽しめるタイプの恐ろし映画という感じ)。
心臓に悪い描写もそんなに多くないです(ちょっとだけある)。怖さの質感は同監督のゲット・アウトを見ていればなんとなくわかるかもしれない。ただ、演出の雰囲気は近いものの扱ってる存在はまったく違うので、怖さついてはやはり異質。 シナリオ、画作り、キャラクター、音の使い方、(あと先行作品へのリスペクト)などどの要素もかなり面白かった。
おすすめです。
以下からガッツリ内容に触れます。(ネタバレあり)
ネタバレありのメモ書き
考察か感想というよりかは覚え書きに近い。
『NOPE』には、「結局私たちが戦ってるのってクソでかい仕組みだよな」という意識が通底している。
そこにあるのは、仕組みはときに強大で巧妙に見えるけどそこに作為があるわけではなく淡々と作動しているだけなので時に不条理に、時に滑稽に見える、という視線、そして、その自動的な仕組みの裏側にデカい個人の作為や意識を安易に読み取って集約しようとすることに対する厳しめの視線も注がれている。(なんでUFOって呼ばなくなったか知ってるか?)
要するに、願いを乞うとか、対話を望むとか、情に訴えるなんてのは到底無理で、その手の「もう動いちゃってんだから仕方ない」仕組み、つまり"無理ゲー"(NOPE)に対してどう抗っていくか、というのが作品を通底するテーマの一つに見える。
それはもちろん今作のメインオブジェクトであり、明確な意志主体というよりかは反射で動く動物的(いやむしろ機械的)な側面を持ったJean Jacket(Gジャン)の話でもあるし、同時に黒人差別を始めとした構造的な抑圧の話にもなっている。この手の抑圧も得てして個人の意識とは異なる次元で構造として行われるという意味である種反射的で、そうなると仕組みを変えていくか、仕組みごと破壊するしかない。
映画業界にあっても抑圧されてきた黒人だったが、その業界を内側から変えていった存在として主人公らが営むヘイウッド・ハリウッド牧場は描かれている。この「構造を利用して内側から変える」という力学はラストシーンの撃退方法、つまりGジャンの行動特性をそのまま利用して内側から爆破する、という方法論にそのままつながっている。
この「動いちゃってんだからどうしようもない無理ゲー」という意味ではリドリー・スコットの『悪の法則』(2013)を思い出す。あれもまさに、世界は個人の意志を超えて無感情に動き続けていてそこには同情も対話も望めない……という仕組みの無慈悲さを描いている。というか、後半で描かれていた全速力のバイクが"無電地帯"に突っ込んで事故るシーンはそれこそ『悪の法則』で張られたワイヤーに突っ込むシーンへの意識を感じさせる。 https://gyazo.com/0bb3d5f808942e11b42f3f8dc0439c6d
▲『悪の法則』(2013)
Gジャンを爆破した後のラストシーンはおそらくクエンティン・タランティーノ監督『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)のオマージュ。門の間に立つ馬からそれを見つめるカメラ目線まで同じ。ただ、この男女の関係が逆転している点は見落とせない("爆破"担当も妹だし)。ジャンゴの課題意識を引き継ぎつつもう一歩踏み込んだ提起をしているのがNOPEになっている。 https://gyazo.com/97cbb78e15d6a76c88fc90098ed66adc
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▲『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
『ジャンゴ』と『NOPE』の共通項は多い。まず当然どちらも黒人に対する構造的な抑圧の歴史を語っている。白人のDr.シュルツと組んでジャンゴが戦っていた相手も、白人というよりは奴隷制という構造である(だからこそ、スティーヴンといった構造に依存しうまくやっている黒人も登場する)。
そして、「人⇨馬」の支配関係を「白人⇨黒人」の支配関係のアナロジーとして捉えている点も共通している。『ジャンゴ』のクライマックスシーンでは主人公のジャンゴは馬から鞍を外し、身一つとなった馬に荷物だけ提げて駆っていく。「主人-奴隷」の関係を「人間-馬(動物)」の関係に拡張して考えるという表現はNOPEでも終始貫かれている。
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▲『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)
あとはオマージュが大量に仕込んであるオタク映画としてのリスペクトもあるのかもしれない。
家の佇まいなんかはヒッチコックの『鳥』っぽい。これはホラーサスペンスの先駆としてのリスペクトか。 https://gyazo.com/9cf64c7fa97096b46c2525f48a0010cd
▲『NOPE』(2022)
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▲『鳥』(1963)