260123_サビのアウフタクトについて考える
アウフタクト(弱起)という音楽用語がある。アウフタクトというのは、小節の頭拍でメロディを始めずその手前から始めることを意味する。
例えば、米津玄師の「IRIS OUT」のサビであれば「一体どうしよう」のうちの「一体」がアウフタクトになるし、同じく米津玄師のKICK BACKなら「ハッピーで」の「ハッ」がアウフタクトになる。一方で、例えばKingGnuの「SPECIALZ」や「AIZO」のサビは頭拍からメロディが始まるのでアウフタクトが存在しない。
言ってみれば頭拍への助走のような役割を持つアウフタクトだが、このアウフタクトの世界はなかなか奥深いので、メモ的にまとめてみる。
個人的に気になっているのは「Bメロとサビの境界線を溶かす」ようなアウフタクト表現で、まずそれをいくつか紹介したい。
例えば、どんぐりず「Oto mafia」はその好例になる。
https://youtu.be/ZsxOK-32xnU?si=-QTdsyXMp4ABT4VH&t=33
スローなメロが歌われる中そこに徐々に細かいアーメンブレイクがフェードインして、「何があってもブレないことだと思いMary Janeに着火」とサビに入っていくが、ここで面白いのはメロからサビにかけて歌詞が途切れなくまたがっているところだ。歌詞で言うとおそらく「思いMary Janeに着火」からがサビということになるが、そうなると「何があってもブレないことだと」がサビへと向かう巨大なアウフタクトということになってくる。メロとサビのあいだに呼吸を置かず途切れなく転換していく様は、演者に集中しているといつのまにか背景がまるっと変わっているみたいなイリュージョン感がある。
ピノキオピー「転生林檎」のサビの入り方も面白い。
Bメロの「自分が消えちゃったの」の「の」が頭拍に来ていて、これはBメロがサビの頭拍にはみ出しているとも取れるし、全体がサビに向かう長いアウフタクトだとも取れる。Bメロを聴いているままに気づいたらサビに突入している様子は、ジェットコースターに乗ったままぱっと目の前の景色がひらけるような気持ちよさがある。
https://youtu.be/LYWP8HtgeLQ?si=IsniNGfKonulXM3w&t=62
藤井風「まつり」も転生林檎と同じく、Bメロが一拍はみ出してサビに入る。これはアウフタクトというよりBメロがはみ出す事例になるが、しかしBメロの盛り上がり、勢いがそのままサビに持ち越される力強さはこれまでの事例と共通している。
https://youtu.be/NwOvu-j_WjY?si=w2-njv5P2dHgj5wV&t=74
名取さな「アマカミサマ」も転生林檎に近いアウフタクトが見られる。この曲のサビの入り「アマカミサマ〜」はサビの中で反復されるので、ここからがサビと捉えてもよいだろう。
https://youtu.be/-uvosnOrKoc?si=3HECAF7ieCMJwNXy&t=54
転生林檎と違って頭拍のメロディがなく、アウフタクトがロングトーンになってそのままサビに突入する構成になっていて意表を突かれる。敢えて頭拍をすかすことで生まれる浮遊感が気持ちいい……。
ちなみに、私が学園アイドルマスターに提供した「メクルメ」は、まさにこの長いアウフタクトを実践している曲になっている。
https://youtu.be/vG5_bwL7UkI?si=Ga8BYgnbcwjQv95n&t=38
Bメロで「青い熱い痛い遠い季節を……」ときて、そのまま途切れなく「待ちわびたり〜」とサビが始まる。上で紹介した曲が持っている、勢いのまま気づくとサビに突入しているイリュージョン感はいつか真似してみたかったので、演出として取り入れてみた。
個人的に衝撃的だったサビのアウフタクトはアイドルマスターシンデレラガールズの佐藤心の楽曲「しゅがーはぁと☆レボリューション」のもの。
https://youtu.be/cMXSRwY5sQ0?si=SHnIMIx9tyCeW4T4&t=43
なんとBメロが歌われている最中に別のメロディがカットイン、それをアウフタクトとしてサビに突入していく。この情報がオーバーフローしたまま気持ちの良いサビに突っ込んでいく感じがたまらない。
最近の曲のアウフタクトで秀逸なのはやはりDECO*27 - モニタリングだろう。「MWAH!(むーわ!)」の「わ」で頭拍に突入するサビは強烈なインパクトがある。そして特徴的なのはそのMVで、サビでは音だけでなく映像でもアウフタクトが行われていると言える。つまり、サビの頭拍でカットを割るのではなく、その手前でカットを割り、頭拍に向けた助走を設けているのだ。
https://youtu.be/kbNdx0yqbZE?si=c0yiGmwf6-Xl1mfV&t=32
「むー」の時点でミクを棒立ちにさせておいて、「わ!」で一気にこちらに迫ってくる。サビが始めるまで引きの絵面で作った溜めが効いている。
普通アウフタクトという用語は映像には使われないが、敢えてこのまま「MVのサビにおけるアウフタクト表現」についても考えてみたい。
最近公開された『推しの子』3期のOPはまさに映像のアウフタクトが印象的だった。
https://youtu.be/QgIQbeRzkkc?si=ItrNCMOV14bUvK5M&t=33
サビの手前のキメでカットを先出しし、そのままカットを割らずにサビに突入、代わりに照明の変化で頭拍の音を拾っている。カッコいい……。
OPといえば、『野原ひろし 昼メシの流儀』OPもサビの入りが素晴らしかった。
https://youtu.be/i2XITie-LVQ?si=qU1GZF476nbEJkZe&t=58
突然真っ白な空間に野原ひろしが現れて、「一体何が起こるんだ!?」と身構えたところに、巨大なご飯空間が展開される。初見でこのアウフタクトの妙に大喜びした。
『ウィッチウォッチ』のOPのアウフタクトは独特だ。
https://youtu.be/a_NB6QkfzAM?si=z3c-YWQkoKxj9Btu&t=47
OP楽曲のクレジットがサビの前から小さく出ていて(おもしろい)、サビに合わせてこちらに迫って来る。この映像上のアウフタクト演出は曲のアウフタクトと完全に同期しているとも言える。このOP映像は全体通して音の展開の拾い方が面白い。
モニタリングと同じくDECO*27の「ルーキー」のMVも、サビが始まる手前からミクがインしてサビで一気にこちらを向く。これも気持ちがいい。
https://youtu.be/owv06htaoI8?si=XzzvYGfdiokvuPLN&t=37
こうやって探してみると映像上のアウフタクトは珍しいものでもないことがわかる。
最後に非常に好きな映像アウフタクトの事例を貼って終わる。転載でスミマセン。
https://youtu.be/kFwHpqv7mP4?si=OJx6EJf5zk1eYhHW&t=112