作品の制作順序について
最終更新日:2022/07/14
空を満たしてについて追記。
Q.私は幼い頃からボーカロイド作品を聴き続けていて、数年前から漠然と音楽を創る側になってみたいという気持ちがあるのですがわからないことだらけで長い間踏み出せずにいます。
特に今困っているのが制作の順序なのですが、フロクロさんは作詞、作曲、映像などどのような順序で製作されていますか?
歌詞がなければ音は作れない、ただ音がないと歌詞は作れないようなイメージがどうしても抜けないので、よろしければフロクロさん流で一つの作品が完成するまでの過程を教えて頂けるととても嬉しいです。
Q.フロクロさんは普段どうやって曲を作りますか?コードからですか?メロからですか?
作品をどのような順番で作るか、は永久の難題で、結果として私は毎回異なるルートで作品を考えるみたいなことになってます。
一応手始めにそれぞれのルートの利点と欠点(あくまで私が作る上で感じた個人的な所感)を記します。その後で具体的な作品をどこから考えたかについて書きます。ただ、音楽制作は脳内でけっこう同時に進行する部分も大きいと思うので、このページに書いてあることはあまり真に受けすぎないほうがいいかもしれないです。あくまで雑談程度に。
1.コードから考える
私がよく取る方法です。好きな曲のコードを引っ張ってきたり、オリジナルでコードを考えてそこから着想する方法です。
メリットは曲の展開を先に作りやすいところにあります。まずAメロはこういうコード、Bメロはこう、そしてサビはこう……とコードだけ先回りで打ち込んでしまうだけで簡易的なフルのオフボーカル音源が完成し、後はメロディを考えるだけ、な状態に持っていきやすいです。
欠点は、メロディを考えるのがムズいという点です。私だけかもしれませんが、コードを打ち込むとコードのトップノート(一番高い音)に引っ張られて自由なメロディがあまり出てこないのです……(これはおそらく私の素養の問題です)。なので曲全体の流れは作れたけどしっくりくるメロディが全然乗らない……とお蔵入りになってる曲がまあまああります。まあ、メロディが書けても歌詞が思いつかずお蔵入りに……など先は長いのですが。
ただ、コードから始めることによるメロディ的なメリットも一応有り、それはコードとの関係性からメロディを考えられるという点です。例えばコードAm7(ラ・ド・ミ・ソ)を打ち込んだ時、その上でメロディのラ(ルート)を鳴らせば暗い安定感が得られるし、ド(3rd)を鳴らせば情感が強調できるし、ソ(7th)を鳴らせば上品さが引き立つ……といった風に、コードをメロディのガイドとして利用することが出来るのです。
このあたりはSoundQuestさんが「シェル」という用語を用いてわかりやすく説明してくれているので一読をオススメします。
まあそこまで深く考えずとも、コードの構成音(=内音)を使えば少なくとも不協和音なメロディになることはない、くらいの気持ちを持つだけでもメロディが書きやすくなります。音楽はメロディが全てではないので、良いメロディが書けない場合は聴いてて変じゃない無難なメロディが書ければOK!!!というのが私のモットーになっています。メロディが不得手なのです。
2.メロディから考える
メロディが不得手な私ですがメロディから考えることもあります。そしてメロディから考えるメリットは完成する確率が高いという部分にあります。というのも、良いメロディにコードをつけるのと良いコードにメロディをつけることを比べると、メロディにコードを与えるほうが遥かに楽だからです(少なくとも私にとってはそっちのほうが楽です)。何故かというと、メロディには一定のオリジナリティが求められる一方コードは定番のものをそのまま使っても大丈夫だったりするためです。(といいつつこれはボカロやJ-POP、邦ロック的な4-8小節でループするようなメロディを想定してるから言えることで、より複雑で長いスパンのメロディにコードを付けるのは普通にムズいと思います。)
欠点は、コードがけっこう知識によってカバーできる部分が大きいのに対し、メロディは知識では太刀打ちできない、いわばセンスが必要な部分が大きいというところです。言ってしまえば、知識だけで良いコードを作るのは無理ではないですが、知識だけで良いメロディを書くのはムズカシイ、あるいは、ものすごく大量の知識が必要になる、ということです。これはもはや順序の問題ではないですが……
あと、メロディにピッタリハマる歌詞を考えるのが割と難しく、ここで詰まることが多いです。メロディの高低と言葉の高低が合ってないと歌ってて具合の悪い歌詞になることがしばしば有り、その兼ね合いを考えながら言葉をはめるのがけっこうムズいのです。
3.リズムから考える
今絶賛開拓中のルートです。
HIPHOP/ラップでは"フロウ"という考え方があり、要はどういうリズムで言葉を発するか、というラップの譜割りのことです。音程の存在しないラップではこのリズムが非常に重要で、ひとつキャッチーなフロウを考えてそれをバースで繰り返す、
https://www.youtube.com/watch?v=7tOqUtSTF2w
例えば「Ski Mask the Slump God - Foot Fungus」とか、ずっとひとつのフロウ(=リズムパターン)を繰り返してるのがわかると思います(テッテーンテテテテテレテン、みたいな)。リズムの繰り返しというのはどの音楽にもあるんですが(いわゆる「モチーフ」)、HIPHOPはこのフロウの研究がすごく進んでいて刺激的なのでボカロに持ち込めないかと密かに目論んでいます。実際に曲として結実したらまた詳しく書きたいと思います。
4.歌詞から考える
このルートは最も完成する確率が高いです。純粋に私が歌詞書くのが苦手だからかもしれません。でも歌詞が決まるとメロディが書きやすく、メロディが決まっていればそこにコードを付けるのは難しくないので、結果途中で詰まる確率が一番低いのがこのルートなのです。
欠点は奇抜な音楽になりにくい点です。歌詞からメロディを考えると日常的な発音に則って音程を考えることになるので、自然なメロディになる確率は高いですが逆にそれは発話的な音程に縛られるというデメリットにもなります。個人的にはお蔵入りするデメリットに比べると無視できる欠点な気もしますが。
5.映像から考える
私がよく取る方法のひとつです。動画投稿サイトに曲をアップするという都合上何かしらの映像は必要になり、私はけっこう映像も大事にするタイプなのでここのイメージがついてないと曲が完成してもお蔵入りする可能性があります。逆に作りたい映像表現があって、その映像表現のために歌詞を描き下ろし曲を書き下ろすというパターンもあります。
個別の動画のルートについて
ことばのおばけがまどからみている
コードから考えました。
この曲はもともと韻を踏もうとかあまり考えてなくて、歌モノにしようとだけ漠然と考えてオケを作っていました。なのでメロディ以外のインストゥルメンタルが先に完成して、後から歌詞とメロディを同時に付けたという順序です。動画は曲が完成してから考え始めました。何もアイデアがなかったんですがすぐ思いついて良かったです。
ただ選択があった
映像から考えました。
コンセプトとビジュアルのイメージは決まっていたので、そこにどんな歌詞・メロディをつけてどんなコードをつけるかで悩みました。「ただ選択があった」というタイトル・コアの歌詞が決まってからはトントン拍子で、その歌詞を交換して成立する単語を考えつつそことセットで鳴ってると良さそうなコードを書き込み、最後にメロディを考える、という順序です。
ロスト・デリュージョン
メロディ +コードから考えました。
解説記事でも書きましたがこの曲は明確なリファレンスがあったので、そのコードとメロディを依り代にして全体を考えました。なのでコードとメロディがまず完成して、そこに歌詞をつけ、曲が完成してから映像を考える、という順序です。
黒塗り世界宛て書簡
歌詞から考えました。
歌詞ありきの曲なのでまず歌詞を組み立て、その歌詞・コンセプトが生きるアレンジ・BPMを探し、コードを打ち込んで歌詞に沿ってメロディを考える、という順序です。ただ、歌詞より前に映像のアイデアはあり、それより良い映像のアイデアを考えていましたが結局思いつかず初期案で投稿したので映像先行と言っても良いかも知れません。
空を満たして
映像から考えました。
映像のコンセプトがまずあり、そこからそのコンセプトに合う歌詞を考え、その歌詞にメロディを付け、最後にコードを付けました。