ことばのおばけがまどからみている/重音テト
最終更新:2022/05/04
https://youtu.be/YBgzkksLURU
歌詞について
元ネタ
実は「同時に韻を踏む」というアイデアの実践はこの曲が初めてではなく、私が知る限りではSIXさんというラッパーの方が左右で同時にラップして同時に押韻する楽曲を発表されています。
SIXさんはストイックに韻の可能性を突き詰めているラッパーと同時に研究者(あるいは求道者)的な方で、アイデアと技巧に富んでいるぶっ飛んだ作品を多く制作されています。上の作品も対称的なふたつのリリックを長めの脚韻で同時に押韻しているという凄まじい作品です。
こちらの作品は左のフレーズが一小節遅れて右で繰り返され、結果的にひとつの詞の離れた部分で同時に押韻するというヤバい作品です。「ことばのおばけ」はこの二作品が下敷きになっています。SIXさんの他の楽曲も凄いのでぜひ聴いてみてください。
上記の作品はラップで、かついわゆる語感踏みに近い踏み方(正確には単語のうちより強く母音が発声される部分を合わせる方法)によって共時押韻を実現していたので、それを①「メロディのある音楽」で、②「モーラ(1音)単位の押韻」で、かつ③「時間差でハーモニーを生む輪唱・カノン的要素」も取り込んでやってみる、というのが「ことばのおばけ」のコンセプトです。
別々の歌詞・メロディを同時に歌うことでハーモニーを作るというのも前例がいくつかあり、米津玄師の「KARMA CITY」などはその例です。
https://open.spotify.com/track/4uaqXu1luljn5Y8Yle9BYp?si=1362d1bcdd994f0c
別々の歌詞を全く異なるリズムと音程で同時に歌うことで世界観に妖しい厚みが出ています。
あとは類似の技法として「かえるのうた」でおなじみの輪唱があり、今作のAメロ、左右で歌詞が遅れてくるパートがこの輪唱形式になっています。
輪唱はカノン形式と言い換えても良く、これについては大西景太さんによるカノンを視覚化した映像が非常にわかりやすく、美しいです。
https://youtu.be/0AJs4n9AoDI
(大西景太さんは音楽の視覚化という点で素晴らしい作品をたくさん残されていて、私が強く影響を受けている作家の方の一人です。)
「ことばのおばけ」は時間差での子音踏み(母音でなく子音まで合わせるような踏み方)とこの輪唱的なハモリを組み合わせていて、音素が一致した箇所だけきれいにハーモニーが生まれるように歌詞を調整しました。
今回の作品はひらがな一文字単位で押韻する、ということで、MVもそのことがわかりやすいように歌詞を全部ひらがなで表記すると決めていました。そうなると必然的にひらがなで表記したときに意味が定まりづらい言葉、つまり漢語を使うことが出来ず、一部(らじお)を除きほぼ全編和語で構成された歌詞となりました(例えば「こうてい」と歌詞に入れた場合ひらがな表記では「肯定」か「校庭」か「皇帝」かわかりません(「コウテイ」かも)。そのため意味が定まらないこういう熟語は使えないのです)。そういった構造的な制約も一端になっていますが、全体的な作詞と押韻のスタイルは私が大好きなラッパーである志人の影響を強く受けたものになっています。
https://youtu.be/dhXPV-BNZU0
志人は日本語ラップを文学にまで押し上げた人物の一人と言ってよいと思うのですが、一般的なラップのイメージとはかけ離れた個性的な言葉の選び方と、ひたすら緻密に、あたかも母音のタイルを敷き詰めるかのように押韻するスタイルに完全に食らってしまっていて、この和語中心で一母音ずつ言葉を合わせていく様式を「ことばのおばけ」でも踏襲しています。
志人の参加した作品で有名なのは「禁断の惑星」でしょうか。こちらの押韻もめちゃくちゃすごいので是非聴いてみてください。
https://youtu.be/Qpx7CXIrz3o
Bメロは元ネタはZORNのかんおけという楽曲のラストスパート部分を意識しています。
https://www.youtube.com/watch?v=r8CEhAKJTbY
ZORNは本当に好きな(1番かもしれない)ラッパーで、固くて意味が通っていて、かつ等身大で、しかも超面白い韻を踏むという唯一無二のスタイルを持っています。
「かんおけ」は全編通して圧倒的なスキル、言葉に対する深い洞察と実践を見せているんですが、2:48からの畳み掛け部分では「一度きりの人生」から母音「IIOIIOIE」で怒涛の10連続押韻をカマしています。
一度きりの人生 1秒1秒死へ
日常に忍び音 霧も切り通して
未知の道を行け 生きろ嬉々として
日々の意味を知れ 木々の幹の威厳
ミリの塵の人間 明日のことなんて siriも知りもしねぇ
す、凄すぎる……。これと比べると私の押韻は児戯に等しいという気持ちにもなりますが、ZORNをリスペクトし同じ母音でBメロを踏み通してみました。
作曲について
これについては経緯はあまり覚えてなくて、明確なリファレンスもたぶん無いです。のでざっくりと書きます。
コードについては「4361(丸サ進行)の次は6143が流行る……!!」という謎の理由でⅥm7→Ⅰ7→ⅣM7→Ⅲaug7を選んだ記憶があります。
基本はピアノ+ウッドベースでボサノバ的なリズムを刻んでるんですが、そこにハイハットがロールしたちょっとトラップっぽいドラムを乗せて不思議な感じにしてみました。
ドラムについてはspliceで拾ってきたループにdblue Glitchをかけまくることで面白い音にしていて、Twitterでaphex twinっぽいというコメントをもらい確かにVordhosbnとか4とか超好きだから影響受けてるな……と思いました。 https://youtu.be/XYrQC-jWMFM
Bメロのコードは適当に無難なやつでいいかとおもい
ⅣM7→Ⅴ7→Ⅵm7→Ⅲaug7
としました。と思っていたのですが、今MIDIを確認したら
ⅣM7→Ⅲ7/Ⅴ→Ⅵm7→Ⅲaug7
という知らないコードが挟まっていて焦りました。
大慌てでコードwikiを確認したらそこにも「A7/C」と書いてあるので多分合ってるんだと思います。いや、ピアノロール見てる自分が不安がってどうする……
普通こういうときはⅢm7/ⅤかⅢ7/#Ⅴを使うのが道理だと思うんですが、過去の自分がどういう気持ちでⅢ7/Ⅴを使ったのか全然おぼえてないです。けっこういい響きなので積極的に使っていきたいです。