第7回:福田敏也
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前半では、「瀬戸内国際芸術祭2022」と「越後妻有 大地の芸術祭 2022」の開幕に先駆けて、総合ディレクターの北川フラムが開催への意気込みや2つの芸術祭の見どころを語りました。後半では、「奥能登国際芸術祭」のコミュニケーションディレクターを務めた福田敏也さんをお呼びし、芸術祭の広報活動についてお話しいただきました。
まず、北川から新作を中心に2つの芸術祭の出展作品の紹介がありました。新しい取り組みとして、「瀬戸内国際芸術祭2022」では、屋島と四国村に新しい施設がオープンし、施設内や周辺に作品が展示されます。また、2019年に始まった「小さなお店プロジェクト」がバージョンアップし、アーティストの関わるお店が並ぶ「女木島名店街」となります。ほかにも多度津など本土側の街中にも作品が展開していきます。
「越後妻有 大地の芸術祭 2022」では、越後妻有里山現代美術館 MonETのリニューアルオープンのほか、ウクライナの作家であるジャンナ・カディロワの新作展示や、田中泯さんや森山未來さんのパフォーマンス公演が行われます。また、「今に生きる越後妻有の作家たち」と題して、クリスチャン・ボルタンスキーやジャン=リュック・ヴィルムートなど計12名の作家の小さな追悼展を連続で開催します。
福田さんからは、地域芸術祭という特殊なコンテンツをどうやって発信していくのかというテーマでお話しいただきました。福田さんは「奥能登国際芸術祭2017」の準備が始まるタイミングでコミュニケーションディレクターとして関わることになりました。東京の第一線で活躍するウェブ制作・PRチームを組織して、能登の良さを独自取材し、洗練されたデザインのウェブとPR誌を制作していました。しかし、開催10ヶ月前に「どこか芯を食った活動になっていない」と感じ、地域芸術祭という特殊なコンテンツにおけるコミュニケーションのあり方を考え直すことになりました。
そこで福田さんは、「気づきの連鎖構造」とでも言うような地域芸術祭の特徴を踏まえたコミュニケーションに舵を切ることになります。(特に北川フラムがディレクターを務める)地域芸術祭では、ディレクターが地域に固有の価値に気づき、アサインされたアーティストたちがその気づきを作品として表現していくというところに特徴があり、その気づきの面白さはサポーターや芸術祭ファンにも伝わって連鎖していきます。例えば、大岩オスカールさんが珠洲の工場にある大きなタンクを発見して、そのタンクを植木鉢にするというアイデアを思いついたというような発見の瞬間が面白いのです。そこでは、地域やタイミングに応じた固有の気づきや感動をリアルタイムで発信することのできる、ライブ感のあるコミュニケーションが求められます。
これは、日常的に芸術祭と向き合っている現地の事務局が自立して発信できるようになって初めて成り立つことです。そこで、東京の制作会社に頼らなくてもウェブのクオリティを維持できるようにするため、プログラムが分からなくても感覚的に運用できるウェブ制作ツールを採用しました。また、事務局スタッフは、福田さんと協力会社の監修のもと、自力でウェブ制作を行いました。徐々にデザインのクオリティが上がり、最終的には事務局だけで完結するようになりました。「奥能登国際芸術祭2020+」ではコロナ対応に翻弄されましたが、事務局が自立して動ける体制が整っていたからこそ不測の事態にも臨機応変に対応することができたのではないか。このような仕組みは地域にとって永続的な資産になると言います。今回は、芸術祭を制作・運営する側としても学びの多い回となりました。
[2022年4月12日、アートフロントギャラリー](文責:江尻)