第5回:田尾陽一、矢野淳、佐藤研吾
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福島県飯舘村を拠点に活動する田尾陽一さん(NPO法人 ふくしま再生の会)と、飯舘村の旧コメリ建屋を活用した拠点施設のプロジェクトを進める矢野淳さん(合同会社 MARBLiNG)、その設計・施工を行う建築家の佐藤研吾さん(一般社団法人コロガロウ)にお話しいただきました。
東京大学大学院で高エネルギー加速器物理学を研究していた経歴を持つ田尾さんは、2011年の福島第一原発事故に際して「被災地の放射線量はどうなっているのか」を知るため福島に向かい、同年6月には福島県飯舘村の農民と協働し、ボランティアと研究者を結集して「ふくしま再生の会」を結成しました。「ふくしま再生の会」は「現地で/継続して/協働して/事実を基にして」を活動指針として飯舘村の生活・コミュニティ・産業の再生を目指します。活動は、田んぼや山林などの放射能量・放射線量測定や、医療やケアに関する活動、営農を再開した市民への支援など、多岐にわたります。田尾さんは、政治哲学者ハンナ・アーレントの思想を背景に、「新しい公共空間を創造していく、自立して思考する諸個人の集まり」として「ふくしま再生の会」を捉えています。また、広島原爆から福島第一原発事故までの体験を踏まえて、人間は自然をコントロールできるという人間中心主義を脱して、「自然に内包されている人間存在」へと認識を改める必要があると言います。
矢野さんからは、飯舘村を拠点としたローカル・プロデュースの会社「MARBLiNG」として、村内の若い世代が中心となって進んでいるプロジェクトについてお話しいただきました。田尾さんとともに震災直後から飯舘村に関わってきた矢野さんは、「飯舘村には世界最先端の課題が集まっている」と言い、その10年の間に蓄積されたデータや研究の内容を村内にも世界にも分かりやすく伝えるための拠点施設を構想します。旧コメリ建屋を活用した拠点施設では、企業や大学などと連携した農業の実験や、科学的なデータの展示、アートに関するプロジェクトや展示が行われ、飯舘村のインフォメーション・センターのような場所を目指します。
また、建築家の佐藤さんは、研究者やアーティスト、移住者など、遊動するように土地と関わっていく人たちの拠点となるように、旧コメリ建屋の改修を進めています。かつてホームセンターであった巨大で懐の深い空間の中に、県内にあった仮設住宅のログ材やビニールハウスのパイプなど誰でも組み立てやすい材料を用いてアーチ型のシェルターをつくり、村内で採れた米の籾殻を使った断熱材などで空間を設えていきます。誰でも参加できるような分かりやすい工法を採用することで、いろいろな人たちの積極性を引き出し、工夫や実験の集積として場所がつくられていきます。いろいろな人やモノが出入りし、常に実験が行われているような拠点施設となります。
今回は3名にそれぞれ違った角度からお話しいただきましたが、田尾さんのお話にもあったように「自立して思考する諸個人の集まり」としてプロジェクトが生まれて進んでいる様子がうかがえました。拠点施設の計画と並行してアーティストによる作品制作やワークショップも開催されており、ますます今後の展開が楽しみです。
(文責:江尻)