第3回:木奥惠三
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現代美術の記録写真を主なフィールドとして活動する写真家の木奥惠三さんにお話しいただきました。数多くの展覧会や作品の写真を撮影されている木奥さんですが、このようなトークはほぼ初めてということで、貴重なお話を伺うことができたと思います。
木奥さんが写真家として現代美術と関わるようになったのは1997年頃。アーティストの中村政人さんや小谷元彦さんの作品写真を撮影するようになり、日本の展覧会のみならず、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展での撮影も担当するようになります(中村さんは2001年、小谷さんは2003年に日本館代表選出)。また、キュレーターの長谷川祐子さんの目にとまり、金沢21世紀美術館の開館記念展(2004)や、マシュー・バーニー展(2005)、ゲルハルト・リヒター展(2005)などの撮影も担当しました。以来、数多くの展覧会や作品の写真を撮影されています。
アートフロントギャラリーとの関わりは、東アジア文化都市「古都祝奈良」(2016)に始まり、最近では「奥能登国際芸術祭2020+」(2021)や「今年の越後妻有」(2021)の作品を撮影していただきました。自然の豊かな地方都市で開催される芸術祭では、天候などを考慮しながら、作品だけではなく周辺の環境が上手く写り込むように撮影していると言います。例えば、「奥能登国際芸術祭2020+」出展作家の村上慧さんの写真には、珠洲の海や田畑を背景にして、村上さんが家を背負いながら歩く様子が収められています。また、「今年の越後妻有」で作品を撮影したゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーとは長い付き合いで、2012年に水戸芸術館で開催された個展では展示の始まる前の滞在制作の段階から密着して制作ドキュメントを撮影しました。ゲルダ&ヨルクの展示では、ヴェネツィアに展示した作品の一部が金沢や水戸でも展示されるというように作品が循環していきます。ちょうど水戸芸術館で撮影した作品の一部を「今年の越後妻有」でもう一度撮影することができて光栄だったと木奥さんは言います。
そのほか、作品を撮影する際のテクニックや撮影後のレタッチのことなど、撮影の技術的な部分をロジカルに説明される様子が印象的でした。それに関して会場から「撮影するポイントは、写真家の個性というよりもシステマティックに決まってくるものなのですか」という質問があり、「記録写真においては、作品の見るべきポイント(=撮影するポイント)はおのずと決まってくると思う」と言います。また、「美術作品の撮影において大事なことは何ですか」という質問に対しては、「アーティストと一緒にいて、生き様を見ることで分かってくることがある」と言います。全体を通して、アーティストと伴走して関係性を構築しながら写真を撮影されている様子が印象的でした。
[2021年12月13日、アートフロントギャラリー](文責:江尻)