第16回:浪越隆雅「なぜ芸術祭で農業をやるのか」
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大地の芸術祭の「まつだい棚田バンク」に関わる、株式会社マイファームの浪越隆雅さんをお呼びして、「なぜ芸術祭で農業をやるのか」というテーマでお話しいただきました。
マイファームは「自産自消」という理念を掲げています。これは、自分で生産した食べ物を自分で食べるという経験を通じて、それまで気付いていなかった、自然と触れ合う楽しさや、自然について会話して感謝することの大切さなどに気付くということです。この「自産自消」という考え方をもとにして、農業生産や関連事業への新規参入支援、産地の形成、人材育成など、幅広い事業を展開しています。例えば、農業を楽しいと感じる人が増えれば将来的に産業として発展していくのではないかという思いから、耕作放棄地と農業を始めたい人をマッチングして市民農園として開いていく事業を行なっています。また、職業農家や農業関連事業をはじめる方に農業を教える「アグリイノベーション大学校」を2011年に開設し、今では2000人もの卒業生がいます。そのほか、農産物生産や農産物流通のプロデュースなども行なっています。耕作放棄地が増加し農業経営体の減少する中で、より少ない人数でより広い面積の農地を耕作するスマート農業を推進しながら、他方で、農業の楽しさを広めることにも重きを置いて、事業を展開しています。
なぜ大地の芸術祭で農業をやるのか?ということについては、地域の「場の力」を後世に残していくため、と言います。農業が人間と自然をつなぐ役割として機能するとしたら、農業が維持継続できる状況をつくりだすことで、結果的に「場の力」が継承されていくのではないか。農業が文化として、あるいは営みとして継続することに賭けていると言います。単に食糧生産のみを追求すると継続が難しくなる可能性がありますが、地域の歴史や文化、伝統や祭事などを経験させていく役割を農業が担うことによって、新しい文化や価値を創造することができるのではないか。そのような意味で、農業とアートを組み合わせることに可能性を感じると言います。
[2023年2月24日、アートフロントギャラリー](文責:江尻)