第1回:南条嘉毅、川村清志
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「奥能登国際芸術祭2020+」に際してオープンした劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」。このプロジェクトにおいてキュレーションを担当されたアーティストの南条嘉毅さんと、歴史民俗学アドバイザーとして関わられた国立歴史民俗博物館の川村清志さんをお呼びしました。
まずは南条さんから「スズ・シアター・ミュージアム」の完成に至るまでの経緯や、個々の作品に関してお話しいただきました。「スズ・シアター・ミュージアム」は、珠洲の民具の博物館であるとともに、民具を主役に据えた作品を鑑賞できる劇場でもあります。商店が店じまいするときに行われる「蔵ざらえ」という文化に着想を得た「大蔵ざらえ」として珠洲の家々に残る民具を収集し、民具の保存管理と並行しながら作品の制作が進められました。海と里山に囲まれた高台に立地するため、外の風景との関係を考えながら、全体のコンセプトや屋内の作品を構想していったと言います。収集された民具をもとにして南条さん含め8人のアーティストが作品を制作しました。例えば、南条さんは古い地層から掘り起こした砂を用いた砂浜に舟を浮かべて波の映像を照射し、《余光の海》という作品をつくりました。また、大川友希さんは街の人に思い出の服を持ってきてもらい、それを短冊状に切ってつないで三つ編みにして1万本の紐をつくり、祭の燈籠に結びつけることで《待ち合わせの森》という作品をつくりました。作品を展示したアーティスト以外にも、建築家の山岸綾さんが舞台美術を担当したり、映像ワークショップさんが映像記録を担当したりと、いろいろな人たちがプロジェクトに関わりました。
川村さんは石川県輪島市のフィールドワークを行っていたことから、歴史民俗学のアドバイザーとして「スズ・シアター・ミュージアム」に関わることとなりました。もともと祭りや民俗芸能など無形の民俗文化財を取り上げることが多く、国立歴史民俗博物館でも「民俗」の分野で口頭伝承や民具などの生活資料の展示を行っています。そのほかにも、近代化の中でナショナリズムや地域のアイデンティティと結びつきながら民俗文化が新たに「創出(invention)」されてきた側面に対する批判的な角度からの研究を行ってきました。過去に類を見ないプロジェクトのため最初は不安があったそうですが、出展するアーティストの人たちと関わりコンセプトを聞く中で、民具を使った作品の展示に可能性を感じるようになったと言います。また、川村さんは展示される民具と作品の重なり(相似性と相補性)について指摘します。例えば、先述した大川さんの《待ち合わせの森》では、実際の祭で使われた切子燈籠と住民の日常的な衣類を作品化することで、地域で共有された経験や無数の記憶を有形資料とともに残すことができます。どの作品も資料としての価値を併せ持っていると言えます。
最後に「スズ・シアター・ミュージアム」の今後の展開について、川村さんは「地域の生活文化の資料のネットワーク化」や「広範なサポーターの参加と育成」の必要性を挙げます。芸術祭の会期終了後も、地域の文化を継承・発信する拠点としての役割に期待したいです。
[2021年10月11日、アートフロントギャラリー](文責:江尻)