NeRFってなんなん
NeRF(ナーフと読みます)の仕組みは、一見すると複雑に感じるかもしれませんが、基本的な考え方はいくつかのステップに分けて理解することができます。NeRFは、たくさんの写真から、まるでその場にいるかのように様々な角度からの新しい画像を作り出すことができる魔法のような技術です。
NeRFが何をしているのか、身近なものに例えながら見ていきましょう。
1. NeRFの目的:いろんな角度から見たリアルな画像を作りたい!
まず、NeRFが目指しているのは、ある物体や風景をいろんな方向から撮影した写真(入力画像)をもとにして、まだ撮影していない新しい角度からの画像を、まるで本物のようにリアルに作り出すことです。
2. 材料:何が必要?
NeRFが働くためには、以下のものが必要です。
たくさんの写真(画像): 同じ物体や風景を、様々な角度から撮影した写真。多ければ多いほど良いです。
カメラの情報: それぞれの写真を撮影したカメラの位置と、どの方向を向いていたかという情報。
3. NeRFの考え方:空間を「色のついた霧」のように捉える
ここがNeRFの面白いところです。NeRFは、3D空間そのものを、**「色のついた半透明な霧」**のようなものとして捉えます。そして、この霧の「ある場所」が「どんな色」で「どれくらい濃い(不透明に近いか、透明に近いか)」のかを予測する小さな賢いプログラム(ニューラルネットワーク)を作ります。
ニューラルネットワークの役割:
入力: 空間の中のある一点の座標 (x,y,z) と、その点をどの方向から見ているかという視線方向 (dx,dy,dz)。
出力: その点の色 (R,G,B) と、その点の密度(どれくらい濃いか、σ)
つまり、このニューラルネットワークは、「この場所をこの角度から見たら、こんな色でこれくらいの濃さで見えるはずだ」ということを学習していきます。
4. 新しい画像の作り方(レンダリング):光線が霧を通り抜ける様子をシミュレーション
では、学習したニューラルネットワークを使って、新しい角度から見た画像はどうやって作るのでしょうか?
仮想的なカメラを置く: 新しい画像を作りたい視点に、仮想的なカメラを置きます。
光線を飛ばす: カメラから、画像の各ピクセルに向かって、まっすぐな光線(レイ)が飛んでいくと考えます。
光線に沿って点をサンプリング: 各光線に沿って、たくさんの点を等間隔または不均等に取ります(サンプリング)。
各点の色と密度を予測: サンプリングしたそれぞれの点について、先ほどのニューラルネットワークを使って、その点の色と密度を予測します。
色を合成: 光線に沿って予測されたたくさんの点の色と密度を、手前から奥に向かって順番に合成していきます。このとき、密度が高い(濃い)点ほど、その点の色が最終的なピクセルの色に強く影響します。また、手前にある不透明な点があれば、それより奥にある点は隠されて見えなくなります。これがボリュームレンダリングと呼ばれる手法です。
ピクセルの色が決まる: こうして光線ごとに計算された色が、最終的な画像の1ピクセルの色になります。これを画像の全てのピクセルに対して行うことで、新しい視点の画像が完成します。
5. NeRFの学習方法:お手本の写真と見比べて賢くなる
NeRFが賢くなる(ニューラルネットワークが正しい色と密度を予測できるようになる)ためには学習が必要です。
予測画像を作る: まず、学習に使う写真(入力画像)と同じ視点・同じ角度から、現在のニューラルネットワークを使って画像をレンダリング(予測画像を生成)します。
お手本と比較: 生成された予測画像と、実際のお手本の写真(入力画像)をピクセルごとに比較し、どれだけ違うか(損失)を計算します。
ニューラルネットワークを調整: 損失が小さくなるように、ニューラルネットワークの内部のパラメータを少しずつ調整していきます。具体的には、「この点の密度をもう少し高くした方が、お手本の写真に近づくな」とか「この点の色はもう少し赤みを強くした方がいいな」といった具合に、ニューラルネットワークがより本物に近い色と密度を出力するように修正していきます。
繰り返す: この「予測画像の生成 → お手本との比較 → 調整」というプロセスを、たくさんの入力画像と視点について何回も何回も繰り返します。これにより、ニューラルネットワークは、3D空間の形状や見た目を徐々に正確に表現できるようになっていきます。
NeRFのすごいところ
非常にリアルな画像: 生成される新規視点画像は、非常に高品質でリアルです。
複雑な表現も可能: 物体の細かい形状だけでなく、光の反射や半透明な物体の表現など、複雑な見た目も捉えることができます。
データ効率が良い場合も: 従来の3Dモデルを明示的に作る手法に比べて、写真から直接学習するため、場合によっては効率的に3Dシーンを表現できます。
NeRFのちょっと大変なところ
学習に時間がかかる: ニューラルネットワークが賢くなるまでには、たくさんの計算が必要で、学習に時間がかかることがあります。
1シーンごと: 基本的なNeRFは、1つのシーン(例えば、特定の部屋や物体)に対して1つのニューラルネットワークを学習させます。別のシーンの画像を作りたければ、また新しく学習し直す必要があります。
まとめ
NeRFは、たくさんの写真とそのカメラ情報を使い、空間の各点の色と密度を予測するニューラルネットワークを学習させます。そして、新しい視点からの光線がその空間をどう通り抜けるかをシミュレーションすることで、リアルな新しい画像を作り出す技術です。
例えるなら、NeRFは**「写真から3D空間の”空気感”ごと記憶する超高性能な画家AI」**のようなものと言えるかもしれません。このAIは、あなたが「この角度から見たい」とリクエストすると、記憶した”空気感”を元に、その場の光景を正確に描き出してくれるのです。
この技術は現在も活発に研究が進められており、学習速度の向上、より少ない画像からの再構成、動く物体への対応など、様々な改良が試みられています。