VR技術者認定試験という資格について
こんばんは.この度はVR技術者認定試験という変な資格について雑に紹介する記事を書こうと思います.ちょうど昨日がその試験(アプリケーションコース)でした.
VR技術者認定試験とは
VRSJこと日本バーチャルリアリティ学会が主催している「バーチャルリアリティについての知識」を問う試験です.試験範囲はVRSJが出版している「バーチャルリアリティ学」という本です。(後述する講習会からも出題されたりしますが,メインはあくまでも本)
試験は「セオリ―コース」と「アプリケーションコース」の2種類があり,前者はバーチャルリアリティ学の1~4章,後者は5~8章が出題範囲になります.公式HPの説明を引用すると,
いまや人間の創造的な活動にとってVRは必要不可欠なものになろうとしています.しかし,現在,この「バーチャルリアリティ学」を系統的に学ぶ場がほとんど存在しません.それが,当学会がVRを習得するための講習会を催し,また,VRを正確に習得したことを証する「VR技術者」を認定している所以なのです.技術が高度になればなるほど,また人間や社会との関係が増せば増すほど,技術を正しく理解することが肝要となります.この講習を受講し,この試験に合格することで,皆さんが社会の様々な創造的分野をリードしてゆく「VR技術者」として,世界の大舞台で活躍されることを期待しています.
とあり,将来ますます身近な概念になるであろうVRの正しい理解と応用を促進するための試験となっています.今日急速に台頭している「メタバース」というワードにも大きく関連しており,その定義と考え方を知ることができるでしょう.
そもそも「バーチャルリアリティ」ってなに?
具体的にどういったことを学べるん?ということで一例を紹介します.毎年「VR元年」と言われるレベルで急激な成長を続けるVRですが,そもそも「バーチャルリアリティ」という言葉の意味はどういったものなのでしょうか.恐らくほとんどの人が「仮想現実」と答えるでしょう.しかしここでVRSJの公式HP「バーチャルリアリティとは」に記載されている文を引用しましょう.
バーチャルリアリティのバーチャルが仮想とか虚構あるいは擬似と訳されているようであるが,これらは明らかに誤りである.バーチャル (virtual) とは,The American Heritage Dictionary によれば,「Existing in essence or effect though not in actual fact or form」と定義されている.つまり, 「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり,これはそのままバーチャルリアリティの定義を与える.
バーチャルの反意語は,ノミナル(nominal)すなわち「名目上の」という言葉であって,バーチャルは決して リアル(real)と対をなす言葉ではない.虚は imaginaryに対応し虚数 (imaginary number) などの訳に適している.因みに,虚像はvirtual imageの誤訳である.触れないというのは,像の性質であって,バーチャルに起因するわけではない.virtual imageはreal imageのようにそこに光が集まったり,そこから光がでるわけではないが,それと同等の効果を有するというわけである.擬似は pseudo であって外見は似ていても本質は異なる偽者である.仮想はあくまでもsupposedで仮に想定したという意味を表していて,これもバーチャルとは全く異なる概念である.一例を挙げるならば,仮想敵国は supposed enemy であって,バーチャルエニミー(virtual enemy)というのは,友好国のように振る舞っているが本当は敵であるという意味である.バーチャルマネー(virtual money)も電子貨幣やカードのように貨幣の形はしていないが,貨幣と同じ役割を果たすものをいうのであって,決して偽金ではない.バーチャルカンパニー(virtual company)が仮に想定した仮想会社であったならば,そのようなところとは.取り引きができない.従来の会社の体裁はなしていないが,会社と同じ機能を有するので,そこを利用できるのである.明治以来このかたこの言葉を虚や仮想と過って訳し続けてきたのは実はバーチャルという概念が我が国には全く存在しなかったためであろう.しかし,考えれば考えるほどこのバーチャルという言葉は大変奥の深い重要な概念である.
バーチャルは virtue の形容詞で,virtue は,その物をその物として在らしめる本来的な力という意味からきている.つまり,それぞれのものには,本質的な部分があってそれを備えているものがバーチャルなものである.
(全部引用したおかげで冗長すぎる)
上記のように言葉の定義から考えた場合,「仮想」と訳すには不適切なシチュエーションである可能性があるのです.「見かけや形は原物そのものではないが,実質的あるいは効果としては原物である」という意味は日本語に起こすとかなりもやもやするかもしれませんが,つまりこの「バーチャル」を最も定義に寄せて思考停止で表せる言葉は日本語には存在せず,カタカナの「バーチャル」で訳すのが適当なのではないかということです.バーチャル現実・・・VRの急成長と共に広まってしまったこの「誤解」を解消するためにバーチャルリアリティという概念について改めて見直し,適切な理解をすることが必要なのです.(特に専攻志望者やエンジニアは尚更)
この試験受けるメリットある?
本試験を受けて合格すると「バーチャルリアリティリアリティ技術者(Virtual Reality Specialist)」の資格認定証が授与され,VRの知識や用いられている分野,応用事例について一応修学したことを示すことができます.
セオリーコースとアプリケーションコースの両方に合格すると「上級バーチャルリアリティ技術者(Senior Virtual Reality Specialist)」の資格が認められます.こちらの資格認定証は廃止されましたが,呼称は残っていることからTwitterのプロフィールに「上級バーチャルリアリティ技術者」とデカデカと書くことができます.つよそう.(基本情報技術者のような国家試験ではないので公的な証明や待遇改善に利用するのは期待できないです・・・でも話題のタネにはなるよ!!!)
セオリーコース:こちらは先ほど取り上げたようなバーチャルリアリティの基本的な概念の説明,人間の感覚,VRでのインターフェースや構成手法(レンダリングモデリング)などについて学ぶことができます.VRに興味がある人ならなんとなく分かっていると思いますが,VRの研究というのは実に多岐にわたっており,単にHMD(所謂VRゴーグル)を被るものにとどまりません.人間の五感(視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚)それぞれに対してVRを用いた感覚の再現や,複数の感覚を用いてある感覚を強める(クロスモーダル,マルチモーダル)といった研究が盛んにおこなわれており,その背後には 数学や物理学,あるいは生理学の知識が欠かせません.
情報単科大学である弊学ではそれらを体系的にひとしく学べる環境は無いと思います.弊学の学生では普段なかなか目を向けられない分野を修学できるので研究や発想の大きな助力になれるでしょう。(FMSみたいに「バーチャルリアリティ」の講義があるといいんだけどなぁ)
アプリケーションコース:こちらはxRの一角であるARやMRの定義やその応用,テレイグジスタンス,社会実装されている/研究されているVRコンテンツ先行事例,VRにおける評価手法や社会論などについて学ぶことができます.VRはエンターテインメントへの応用がイメージされがちですが,教育や医療への応用も既にされています.また,「ロボット」とも非常に相性が良く,セオリーコースで見られた感覚の再現や「存在感」の再現において必要不可欠な存在です.こちらの方がセオリーコースよりも最近見かける事例や興味深い社会論について勉強できるのでとっつきやすいかもしれません.
試験について
試験は大体毎年7月と12月あたりにあります.また,初学者に向けて毎回「VR技術者認定講習会」も試験の一か月前に実施しています.これは各章について,それぞれの分野の一線で活躍する教授や企業の方々が教科書に沿って分かりやすく講義をしてくれます.関連する最新の研究事例の紹介など,講習会でしか聞けない内容も盛り込まれており,単純にこの講習を受けるだけでも面白いです.
コロナ禍前までは東大や東北大にいかなければ講習の受講および受験ができませんでしたが,ありがたいことにちょっと前からZoom/CBTになりました.試験中の様子を録音録画しなければなりませんが,お家で受験できるようになりました.わーい.
申込はネットから行うのですが,オンライン実施になってから争奪戦が多発するようになりました.申込開始から2,3時間で定員満杯になることが多かったので希望するなら忘れずに開始時間に張り付いた方が良いです.
試験は全て記号選択問題であり,筆記要素がありません.合格するには60%程度の正答率が求められます.しかしはっきり言って「過去問ゲー」です.またその過去問もHPにばっちりアップされています.何年分か解いてみると明らかに同じ問題が出題されることも珍しくありません.このことから合格自体はそこまで難しくありません(平均点も関心のあるエンジニアや学生が受験することから結構高くなりそうです.平然とTwitterで8,9割越えのスコアが晒されていることも珍しくありません.)
おわりに
弊学にもxRを専攻したい/する人がいると思いますが,理工学系ではない弊学でVRについて体系的に学んでいる人は少ないように感じることから本記事を執筆しました.いかがでしたでしょうか.知る人ぞ知るドマイナーな資格試験だと思いますが,これを機に興味を持ってもらえれば幸いです.
来年から自分は未来大生ではなくなってしまいますが,この大学においてxRに興味を持ち,また利用したり研究する人が増えてくれることを願ってやみません.