燃えよドラゴン
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全体的に本作のアクションはどれも「いい」のだが、やっぱりブルース・リーは別格で、敵の攻撃を受けて返すとか、殴り合いをするというより、ただただ一方的に敵がリーに吸い込まれていくかのようなカンフーが見てて大変爽快で、あのキマりまくった、でもニュアンス豊かな表情や「ほあったぁーー!!」という北斗の拳のような(って、あっちがマネしてるんだろうが)咆哮ともあいまって、とにかく中毒性が高い。 意外性のある動きが本作のアクションの要諦なのだ。冒頭、リーとぽっちゃりの試合があるのだが、やられっぱなしのぽっちゃりが急にバク転決めたりする。「そうくる」を予測しない動きが瞬間でやってくるので、実際のスピード以上にスピード感があるように感じる。
リーがなぜハンを倒しにいくのか、そこが気になる。ハンは少林寺の名誉を傷つけた、だからお前は行けと恩師から言われて、恩師に従うだけっちゃだけなのだが、それだけでは理由として弱い。そこで、妹を死に追いやったハンのボディーガードであるオハラに復讐するためというエピソードが付け加えられる。
冒頭の恩師との問答がおもしろい。「What is the highest technique you hope to achieve?」(だと思う聞き取りあやふや)=「どの技を極めたい?」(と字幕ではなってる)と聞かれたリーは「to have no technique」=「"無"の技を」と答える。「敵にあったときは?」と聞かれると「There is no opponent」(敵などいない)。なぜだ?と聞かれると「己を持たぬから」と答える。禅問答のようだが「己を持たぬ」と言いつつ、のちのち、妹を殺された怒りでハンの武闘大会に参加を決めるので、決して無私なわけではない。そこらへんの矛盾がリーというキャラクターを単なるクンフーマスターではなく、血の通った魅力的な人間にしている。 リーと弟子との稽古でのやりとりもおもしろい。「五感を研ぎ澄ますんだ。怒りではないぞ」と弟子に向かってリーは言う。「五感」と訳されてるのはemotional content。怒りとemotional contentを区別している。「don't think feel」もここで出てくる。また、リーはお辞儀する弟子に向かって「never take your eyes off your opponent」(敵から決して目を離すな)、「even when you bow」(礼の時もだ)と言う。 実はリーが言ってることは矛盾だらけだったりする。敵から決して目を離すなということは敵 opponentは存在するということだ。けれども先の恩師とのやりとりでは「There is no opponent」(敵などいない)と答えていたはず。また、リーがその後、オハラへの復讐を果たしたとき(最後はフットスタンプでオハラを殺してしまう)、悲しげな、なんともいえない表情を見せるのだが、果たしてそのとき、リーにあったのは怒りだったのか、emotional contentだったのか。怒りがなかったとは言えないだろう。
「敵から決して目を離すな」「礼の時もだ」と弟子には言っていたが、何度見直しても、オハラに礼をするとき、リーはオハラから目を話している。このシーンは矛盾すると取ることもできるが、別の解釈もできる。その後、オハラは突然板を出してきてそれをリーの目の前に投げて割るのだが、リーは「板は攻撃してこない」という。つまり、この時点ではオハラはリーの「敵」ではないのだ。だから、目を離している。そうした描写だととらえることも可能だ。
さて、オハラはリーの妹の仇だから討たれる理由があるとして、では、ハンはどんな悪いことをしたのか。実はハンがやっていることは、欧米列強が中国に対してやったこととまるで同じである。ハンは地下にてアヘンを製造しているのだ。「他のビジネスと変わらない」とハンは言うのだが、これに対してアメリカ人のローパーは「客に望む品物を提供し、市場活性化のためにそれを必需品にする」「経済の原則だよ」と調子を合わせる。中国人のハンは欧米人が過去にやってきた「資本主義」をそっくりそのままお返ししようとしている。それが「悪」だとされているのだ。
また、牢屋にたくさんの男たちが閉じ込められているのだが、ローパーが「この人たちは?」と聞くとハンは答える。「Refugees, found in waterfront bounce」(聞き取り曖昧。レフューズ、と言っている。最後もbounceじゃなくて何なんだろ)と言ってるように聞こえるのだが、要するに「島の海辺で見つけた難民だ」と言ってるように聞こえる(字幕では「役に立たんクズどもだ」となっている)。そして映画のラストでは、この男たちが牢屋から逃げ出し、ハンの手下たちと大乱闘を繰り広げる。これは民衆による革命の描写になっている。 ラスト、ハンとリーとの鏡の間での対決は本当に素晴らしい、映画ならではの表現。ここだけでも必見だ。