古典
古典が教えてくれることで一番重要なことは、「え、昔っから人間てそうだったの?」という、「人間に関する事実」です。「なーんだ、悩んでるのは自分一人じゃなかったのか」ということは、とっても人間を楽にしてくれます。古典は、そういう「とんでもない現代人」でいっぱいなんです。これで古典がよくわかる/橋本治No.2069 「古典はわからない」「古典はむずかしい」と言う人の多くに共通する、「あること」があります。それは、「”きれい”ということがわからない」です。古典では、「文章が美しい」にはじまって、「きれい」ということが実に多くの比重を占めています。和歌なんかは、ほとんどの場合、「美しい景色を詠む」「言葉によって美しい情景を浮かびあがらせる」です。「和歌はむずかしい」と言う人は、「自分にはむずかしい和歌の意味がわからないのだ」と思っていることが多いのですが、実はそうじゃなありません。「きれい」ということに鈍感なんです。だから、「古典が苦手」なんです。まず、「きれい」を知ってください。それが古典には重要なんです。そのために、「目で見る」が必要になるんです。まず「空」を見ましょう。夜になったら、「月」を見ましょう。そして「きれいだな......」と思いましょう。そして、なんとなくせつなくなりましょう。昔の人もおんなじことをしていたんです。これで古典がよくわかる橋本治No.2270 私は、べつに「万巻の書を読破した」っていう人間じゃなくて、行き当たりばったりで「へー」と言って感心してるだけの人間で、こういう私の最大のとりえは、「古典を恐れない」ってことなんですね。「へー」だけで古典に入ってったっていいんです。ただ、そういうことをやる人があんまりいないってだけです。だから、古典というのものが「むずかしいもの」になっちゃうんです。
「行き当たりばったりで"へー"と言って感心してる」というのは、「道を歩いてたら梅の花が咲いていたので、"あ、梅だ"と言って眺めてる」というのとおんなじです。私は子供の頃、そうやってポカンと口を開けて梅の花を見ていた子供なんです。そのおかげで、「梅の花の濃厚にエロチックな匂い」というものを知っているんです。古典をわかるうえで必要なのは、「教養をつけるために本を読む」じゃなくて、「行き当たりばったりで"へー"と言って感心してる」の方なんです。ちなみに、この私は、「夜中に"へー"」と言って空を見上げている人間」でもありますけど。これで古典がよくわかる/橋本治No.1591-1604