卑怯
「まぁ卑怯なことが嫌いなのは確かですけどね」 / 畠中隊長は、 口に当てていた人差し指を、話し、顔の前で左右に振りながら、いいました。 / おぬしは驚愕してしまうかもしれんが、大抵の人間は正直五%に対し、卑怯九五%の配分で成り立っておる。 そのほうがラクなんよ。衝突せんでええから。自分を卑怯とすら思わぬ自己防衛のバリアを張るのが当然の世界で生き、そして死んでいく。 / 己の卑怯を自覚したとて、卑怯は弱者の武器だと居直る。亀さんが甲羅の中に首をすっ込めるのは、弱者が故の知識じゃろ。卑怯だ、ちゃんと顔を出せといわれても、おぬしが亀さんなら、これが自分の戦法ですばいーー 応えるじゃろう。勇敢に首を出して戦いに臨む亀あらば、同じ亀である者たちは、そいつを浅はかだと罵るじゃろう」純潔 嶽本野ばら p.44