人を好きになる免許証
「人を好きになるのが、 恐いんだ......。 そうじゃない、 僕には人を好きになる資格がないんだよ」 「人を好きになるのに、免許証なんていらないよ」 「否、免許証は必要なんだよ。 その免許証は取得するものじゃなく、生まれた時に既に持っているものだから、 誰もが自分がその免許を持っていることに気付かない。 僕もかつて免許証を持っていた。でも、失くしたんだ」 「何時?」 「ほんの少しだけ、 昔に。――僕には愛する人がいた。その人も僕を想ってくれていた。 いろいろと困難な問題があって、その人とは自由に逢うことが出来なかった。でも僕達はお互いを必死に求め、 そして何時かは出口を見付けて、 僕達を切り離そうとするこの世界から脱出しようと語り合っていた。 それなのに、 僕は彼女の手を、 ずっと絡いでいなければならなかった手を、或る時、 放してしまった。 犯しても赦される過失と決して一度たりとも犯してはいけない過失とがある。 僕は犯してはいけない過失を犯した」 君は僕の横に並んで静かに立ちました。 「その人は、今は?」 「...... 死んでしまったよ」ロリヰタ。 嶽本野ばら 78ページ