ヴィーガニズムと帝国主義
井上 今ヴィーガニズム運動でもアニマルライツ運動でも問題になっているところに絡んでくるのは、やはり多文化主義の問題だと思います。 確かに伝統的な――これもノーマルに関わるところだと思うのですが――文化あるいは世界観のうちにある狩猟や捕鯨といった営みに対して、 「今まではそうしてきたのかもしれないけれど、もう考え直されなければいけない」とアニマルライツの理論で言うことに対して、帝国主義的だという批判も起こっている。そこでどういうふうに対話を図っていくのか。 クレア・ジーン・キムの Dangerous Crossings:Race, Species, and Nature in a Multicultural Age (Cambridge University Press, 2015) のように対話を試みる議論も登場していますが、 まだ解決ができていないところです。 「伝統や文化だから善いものとは限らない」とバッサリ切ってしまって本当に大丈夫なんだろうかということですね。現代思想2022年6月号 特集=肉食主義を考える——ヴィーガニズム・培養肉・動物の権利…人間-動物関係を再考する• / 討議 なぜ私たちは肉を食べることについて真剣に考えなければならないのか / 伊勢田哲治 井上太一19ページ
井上 カルチュラル・アイデンティティとして狩猟をしている場合のほうが難しいところかと思います。 例えば先住民の沿岸捕鯨だと、 動物への思いやりや畏敬と、 動物を狩るという行為とが連続していることがあります。こうなると前提としているロジック自体が違ってきます。 「動物を敬うのなら狩るべきではない」という議論と、「動物を敬うからこそ与えてくれるものを取らなければいけない」 という議論が対立することになる。現代思想2022年6月号 特集=肉食主義を考える——ヴィーガニズム・培養肉・動物の権利…人間-動物関係を再考する/ 討議 なぜ私たちは肉を食べることについて真剣に考えなければならないのか / 伊勢田哲治 井上太一・20ページ