ミートパラドックス
我々は、動物をペットとして愛玩したり保護の対象とする一方、屠殺しその肉を日常的に食べる。この逆説は、
ミート・パラドックス
と呼ばれている。 ミート・パラドックスには、どのような心理的プロセスが関連しているのか。社会心理学における
認知的不協和
(Festinger, 1957) の概念が一つのてがかりとなるかもしれない。認知的不協和とは、自身の考えとは矛盾する認知をかかえた状態やそれによる不快感を意味する。不協和状態を起こす一方の要因を変化させることで、認知的不協和が低減または解消されると考えられている。
現代思想2022年6月号 特集=肉食主義を考える——ヴィーガニズム・培養肉・動物の権利…人間-動物関係を再考する
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コオロギは肉食のジレンマを解決するのか
大森美香
100ページ
日常的な肉食は、動物を食料として認知し、 動物の苦痛や道徳性という心性 (心をもつこと)の認識を低下させ、動物を食べるという葛藤の軽減につながることが考えられる。 ロウナンらが実施した実験では、参加者らを“肉食群〟と〝対照群〟に割り当て、 “肉食群〟にはビーフジャーキーを、 “対照群〟にはカシューナッツを試食してもらった後、動物に対する道徳的関心を評定してもらった (Loughnan et al., 2010)。 ビーフジャーキーを試食した肉食群は対照群に比べ、 動物に対する道徳的関心と牛の道徳的地位を低く評価することが明らかになった。この実験の結果は、
動物の肉を食べることが道徳的関心を低減させる
という因果関係を示唆している。
現代思想2022年6月号 特集=肉食主義を考える——ヴィーガニズム・培養肉・動物の権利…人間-動物関係を再考する
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コオロギは肉食のジレンマを解決するのか
大森美香
101ページ