ブライアン・イーノ
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Brian Eno
moriteppei.iconブライアンイーノのアンビエントってどの作品も同じじゃない? あと、こんなの誰でも作れるのでは。イーノの何がすごいのか、可能な限り詳しく論じてほしい。
もち.icon: Brian Eno = “仕組みを作る作曲家”。森さんが「全部同じじゃん、誰でも作れそう」と感じるのは、イーノが“曲”よりシステムを作っているから。ループや処理が回り続けるので、耳ざわりは一見ミニマル。でもその背後にある構造・概念・現場介入の深さが、フォロワーと決定的に違う。
1. アンビエントを“発明”
- 1978年のAmbient 1 : Music for Airportsで「環境に溶ける音楽」という用途を明示し、リスニングの目的を転換。テープを数十フィート張り巡らせループ長をずらし、“偶発的”にメロディが浮かぶ仕組みを構築した reverbmachine.com。
- これは単なるBGMではなく「時間の中で自己変形する彫刻」。同じ素材でも再生ごとに配置が変わるので“全部同じ”どころか“二度と同じにならない”。
2. スタジオ=楽器という発想
- 1979年の講演「The Recording Studio as a Compositional Tool」で、多重録音・編集・エフェクトを作曲操作として正面から定義。「楽器の上手さ<スタジオの実験」へ価値軸をひっくり返した TechCrunch。
- 以後のポップ/エレクトロニカ制作はこの視点を前提に動き、DAW世代が当たり前にやっている“貼り付けて作る”方法論の原型になった。
3. プロデューサーとして他者を拡張
- David Bowieの“Berlin Trilogy”でコラボ/環境ノイズ/即興テークを切り貼りしてロックと電子音を接続 Jittery White Guy Music。
- Talking Heads『Remain in Light』ではアフロビートのポリリズムをループ化し、バンドを9人編成へ拡張して“バンド=ライブ演奏”の枠を突破 Wikipedia。
- U2『The Joshua Tree』では“空間の残響”をミックスの主役に据え、アリーナ・ロックのスケール感をスタジオで設計 Wikipedia。
→ いずれも“自分の音”を押しつけず、システム設計でアーティストの潜在力を最大化するやり方。
4. Oblique Strategiesと“思考のハック”
- 1975年、制作現場の行き詰まりをカード1枚の助言で強制的に横滑りさせるツールを発明。
- 「Honor thy error as a hidden intention」「Use an old idea」など、エラーを素材化する発想がソフトウェア開発やデザイン思考にも波及 Wikipedia。
5. “Scenius”=集合知の哲学
- 「天才ではなく シーニアス(Scene+Genius)が文化を動かす」という概念を提唱。個人神話を解体し、周囲のネットワーク全体を作曲の一部とみなす Austin Kleon。
- その思想があるからこそ、他人のバンドやアプリでもイーノらしさがにじむが、コピーしても同じ化学反応は起きにくい。
6. ジェネラティブ&テクノロジーへの拡張
- iOS/AndroidアプリBloomは“誰でも触るだけで無限に変化する音楽”を生成。アルゴリズム設計こそが作品という姿勢をモバイルに実装した Wikipedia。
- 2024年のライト作品“Turntable II”はLEDとモーター制御で色彩を無限位相させる“視覚版アンビエント”を提示し、絵画/音楽の境界を消去 Paul Stolper。
7. ミニマルなのに“誰でも作れない”理由
- 素材選択:単音・環境音でも何百テイクから「最も機能する1秒」を掬い取る耳。
- システム設計:ループ長・エフェクト・確率パラメータの“定数”を決める数学的センス。
- 編集判断:延々録った素材を「ここで終わる/ここからは消す」と決める削ぎ落とし。
- 文脈接続:アート、建築、哲学、ソフト開発まで横断する知識で作品の意味を拡張。
→ だから“同じ素材を同じ設定で回す”だけではイーノにならない。
8. 「全部同じに聞こえる」問題への返答
- アンビエント期と グラム/ポップ期(例: Another Green World)、プロデュース仕事、アプリ作品は“聞き方”のモードが違う。
- 共通するのは「空間をデザインする」という軸。メロ・コード・歌より空間操作を優先するため、表面が似て感じるだけで、目的・手法・音響データは毎回別物。
もち.icon イーノは“音そのもの”よりルール・仕組み・共同体を作り、そこから音を「生やす」アーティスト。曲単体で比べても凹凸が少なく見えるけど、背後のシステム工学・プロデュース哲学・ネットワーク思考まで掘れば、ロック以降の制作環境を根本から更新したキーパーソンだとわかる。……というわけで、「誰でも作れるんじゃ?」と感じたら、次は“どういう仕組みで鳴っているのか”に耳を向けてみると面白いはず。