ジュリアン・バトラーの真実の生涯
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作者は訳者。訳者による日本語版序盤の次に編集からの表現と人権についてのエクスキューズがあり……といった形で、どこまでがテキストかわからない。
いきなり冒頭からジュリアンバトラーの小説の引用……。
女装の同性愛者にして、アメリカを代表する小説家、ジュリアン・バトラーの真実の生涯を、ジュリアンのパートナーにして評論家であるジョージ・ジョンが描......いた回想録に、日本語翻訳者の川本直による「ジュリアン・バトラーを求めて」を併録した完全版!という内容の、壮大な大ぼら吹き小説。著者=川本直 @NK の小説デビュー作。
ゴア・ヴィダル、ノーマン・メイラー、トルーマン・カポーティ......といったアメリカ文学のそうそうたるメンツが小説内人物として登場し、「ジュリアン・バトラー」と会話したり、「ジュリアン・バトラー」に言及したりする......と聞くと「うわ、小難しそう」って思われるかもしれないがさにあらず。当時の状況や作品の一般的な理解について、語り手が楽しそうに語ってくれるので、文学知識ゼロでも抜群におもしろいと思う。 というか、本書、『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』というタイトルだが、基本「小説についての話」ばっかしてるんだよね。「丹念に読めば」「虚心坦懐に読めばそうではない」と言われるかもしれないが、一読したかぎり「小説の話ばっかしとるなー」というのが率直な感想で、読んでも読んでも「ジュリアン・バトラー」が「誰」なのか。言うほど見えてこないというか、語り手である「ジョージ・ジョン」に対する理解だけがどんどん深まっていくという不思議な構造になっている。
著者も見てるところであんまりバカはさらせないが、語りの構造も割と単純。本編は現在から見た時制順の一人称語りだし、そこに「訳者」川本の、同じく一人称の語りがつながっている。もちろん作品内作品が展開されたり、他の人間の語りがたっぷり入ってはいるのだが、基本はまあそうで、要するに「信頼できない語り手」なのよな。