そばかす
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『そばかす』なんていうんだろう。とてもよい視聴感の作品でした。恋愛的な展開があるたび、アロマアセクの主人公にとって辛い体験になるので、見てるこちらも「いい雰囲気」になるのがとても怖い。最初同じような展開が続くので(また同級生と再会かい!また同じ喫茶店かい!またベッドで話すんかい!)少し飽きるかな?と思ったけど「いつまで経っても同じところで失敗をさせられる辛さ」の描写でもあるので、これでいいのだと思った。
ケチつけようと思ったらケチつけられる作品だと思ったけれど、とても不思議な、爽快な視聴感なんですよね。すっごく爽やかな。同じようなシーンの繰り返しばっかなのに。ばっか「だから」なのかな。同じ喫茶店、同じ飲み屋、同じ砂浜。何度も繰り返されてるのに、最後はその「同じ景色」に吸い込まれず、というか、一度吸い込まれるのにそこから抜け出して行くラストが爽快なんですね。
特定のテーマを持ち、それを強く打ち出す映画、自分は「すっぽん料理」だと思ってて。すっぽん料理ならすっぽん全部出さなくちゃいけないでしょ。肝も血も雑炊も身も。それと同じように、たとえば『あのこと』という映画であれば妊娠中絶がテーマだから、妊娠中絶にかかわる一連の苦痛、「友達にも相談できない」「男からは今なら妊娠しないしやり放題だと誘われる」「妊娠手術がそれ自体キツい」「カネもない」「その前に自分でなんとかしようとしても上手くいかない」など「考えられるすべて」を入れなくちゃいけない。 『そばかす』も基本的には似てて、「アロマンティックアセクシャル」というテーマで描き切らなくちゃいけない。つまり「じゃあ女同士で暮らすのは?」なんて可能性を描かないといけない。となると、誰かと仲良くなる→でも関係が安定しないを繰り返さないといけなくて、なのでその都度、関係に行き詰まったら「ひょっとして蘇畑さん?」と新しいキャラが出るっていう。だからそういう理由もあって「同じ場所をぐるぐるする」。 『そばかす』を見て思ったんだけど、「友情」もはかなくて不安定なんだよね。「恋愛」のほうが不安定だって思いがちなんだけど、そういうわけでもない。仲良くなりすぎると相手がこちらに性的幻想を持ち始めたりするし、性的幻想を他の人に持つので関係性が変化してしまったり。
主人公かすみはアセク/アロマなんだけど、仲良くなった男性からホテルでキスされそうになって、自分のセクシャリティを明かすシーンがある。そこで「妥協点ないかな。考えよ?」のようなことを言って、相手から絶縁されてしまうのだけど、ここで妥協点見つける回があってもいいというか、その可能性だってあるよね。 かすみは「ロマンチックなものがそもそもわからない」系のアロマンティックみたいだけど、アリス・オズマンの『Loveless』読んでたら、自分がロマンティックを必要としてないだけで、恋愛二次創作とか楽しむタイプのアロマンティックもいるわけですよね。(私の理解が違っていたら指摘ください)特定の「アロマンティック」像に偏っているかもしれない。 かすみは何度も「私、『宇宙戦争』のトム・クルーズの走り方が好きなんです」と言う。好きなのは「単に逃げるためだけに走ってるから」ということらしい。それで気になって『宇宙戦争』見てみたんですが、たしかにトムクルーズの走り方、すごくカッコ悪いし、単に宇宙人に殺されないように逃げてるだけの「走り方」なんだけど、これ、何のために走ってるかって言ったら「離婚して今は他の男の子どもを妊娠中の妻のもとに、自分たちの2人のこどもを届ける」ために走ってる。つまり、トムクルーズは単に逃げるために走っていて、それはかっこわるいのだが、なんのために「逃げるために走ってる」のかといえば、家族のため、なんだよね。 家族のため。アメリカは離婚率すごいんだよね、確か。でも、離婚しても、妻がもう別の男と関係してて新しい家族を築いていても、それでも子どもがいるから、お前は父親だ、父親にはやることがあるし、それを見事に果たすんだ!っていうスピルバーグの結構保守的な家族観が滲み出てる作品なんだよ。
だから、かすみは「そういうことが見えてない」「あまり重視していない」、ただただかっこわるい走り方をしてるのがおもしろいとか、いやな現実から逃げたっていいじゃないかという人間なんだという見事な説明になってる。そのために入れてるフレーズなのかなと。ぼくは宇宙戦争は素晴らしい映画だと思ったけど、ここらへんの「現実の男たちが気持ちよくなれる仕組み」には少しはなじらんだし、なるほど、だから「売れる」のか、とも思った。ほとんどヒューマンドラマはないように見えるけど、宇宙侵略というマクロな事象と、家族の再開というミクロなドラマを重ね合わせてる映画です。
『そばかす』舞台が浜松設定なんだけど、選挙演説シーンの商店街、自分あそこ行ったことあるわ。駅名なんだっけ。草薙駅だっけ。 あと『そばかす』、前田敦子が左利きですよね。前田本人が左利きなのかな。ぼくは左利きなので映画やドラマの中で左手が使われると絶対に気づきます。 田淵.icon 映画『そばかす』は、冒頭、居酒屋のシーンで泣いたんですけど、あれは「恋愛に興味が無いので恋愛トークよりご飯に夢中な図」ではなくて、「私は目の前のごはんに夢中ですよーあ〜おいしそうだな〜ごはんに夢中だからなんの話してるかよく聞こえないな〜だからみんな楽しそうに話しててください私には振らないでください頼むの図」だと認識しています。