The Cage / 歪んだ楽園
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邦題: 歪んだ楽園
パイロット版らしく、実際には当時テレビ放映されなかったらしい。このクオリティで????
登場人物もだから「パイク艦長」になってる。スタートレックで有名なのはカーク船長だよね。
*以下、時間の記載はNetflix版の残り時間数。
あらすじ(全体の流れ)
宇宙船エンタープライズ号は、タロス星からの遭難信号を受け、クリストファー・パイク艦長らが現地へ調査に向かう。地上で遭遇した美しい女性ヴィーナは、実はタロス人という異星人たちによって作られた幻影であり、パイクは捕らえられて実験対象にされる。タロス人は、人類を「ペット」のように飼育し、種として保存する計画を持っていた。最終的にパイクは自由意志を貫き、タロス人は人類は支配に向かないと判断。パイクは帰還し、ヴィーナは惑星に残ることを選ぶ。
特記事項
このエピソードはTOSの最初のパイロットとして制作されたが、当時の放送局NBCには受け入れられず、お蔵入りに。
後に素材が『The Menagerie(禁断の惑星タロス)』として再利用された。
スポックは本作にも登場するが、感情表現が豊かで現在のキャラとは異なる。
感想
スタートレック、1964年制作か。「昔の作品だからダルいかもしんないけど、シリーズものだし、見てるうちにそのおもしろさも徐々にわかってくるだろう」。そうタカをくくって見初めたところ、震えが止まらなくなった。久しぶりにコンテンツに大興奮した。だってこれ、脚本がすごすぎるでしょ。
物語の筋は比較的シンプルだ。
救援信号を受け、タロス星に降り立つパイク艦長と仲間たち。そこで出会ったヴィーナという女性から「こちらに来て」と言われ、パイク艦長はついていくのだが、実はそれは幻の罠で、艦長はタロス星人に捉えられてしまう。
タロス星ははるか昔(thousands of centuries ago 31:10)、戦争のために汚染され、地上には住めなくなっており、現在タロス星人は地下で暮らしている。その間に精神的な能力を発展させたタロス星人は、テレパシーを覚え、幻覚を操れるようになり、脳が肥大した。
が、地上の現実から目を背けたその代償は大きかった。ヴィーナは言う。
But they found it's a trap, like a narcotic. Because when we dream become more important than reality, you give up travel, building, creating. You even forget how to repair the machines.
けれどもそれは麻薬のように抜け出せない罠だとタロス星人は気づいたの。だって夢を見ているときは夢のほうが現実よりも大事になってしまうから。そうなると人は旅行も建築も創作もやめてしまう。機械を修理する方法さえ忘れてしまうの。
30:57
結果、タロス星人にとっての楽しみは、知的生物の「標本」を集め、彼らに幻覚を与え、その反応を見ることになってしまった。標本は「つがい」にして繁殖させる。その標本が望む幻覚を見せることで、標本も望み通りの「幸福な」人生を送る。タロス星人は言う。
We wish our specimens to be happy in their new life.
私たちは標本の幸福を願っています。そこにあるのは新しい人生なのです。26:24
もうこのテーマからして、AI時代、VR時代のとんでもない先取りであるとともに、当時のアメリカ文明に対する痛烈な批判になっている。本質的な批判だからこそ先進性を持つ、本質性は先進性を持つのだ。
モンティパイソンに自転車修理マンというスケッチがある。スーパーマンだけが住む世界で、あるとき、スーパーマンが乗ってる自転車が壊れた! でもスーパーマンは修理ができない.....どうしよう。そこに自転車修理マン(ただの修理工)がやってくる。彼らスーパーマンにとっては「自転車修理工」こそが「スーパーマン」なのだった.....というスケッチだ。
このスケッチは「スーパーマンのように力強いし自信たっぷりだけど修理一つもろくにできない」アメリカ人を痛烈に批判しているのだが、それと同じ批判がここでも繰り返されている。
「見たい幻覚だけ見て現実を忘れてしまう」
「幻覚だとわかっていても惹きつけれ見るのをやめられない」
のは誰か。他ならぬテレビの前の視聴者、つまり「お前」のことだ。
実際、その後、延々と流される(番組の時間の相当量を占める)のは、パイク艦長が見せられた幻覚、つまりパイク艦長の願望である。
ここ、目の前にあるのは二重の幻覚だ。
そもそもスタートレックという番組自体が「嘘」「幻覚」である。「本当にそんな世界が現実にある」わけではない。そして、その世界の中でも「幻覚である」とされているのが、今、視聴者の目の前にうつっている映像だ。
そのことを制作側は隠しておらず、それどころか誰が見ても「これはパイク艦長が見せられてるただの幻覚だ」とわかるように作っている。要するに「これは嘘の話で、今あなたが見ているのは嘘の話の中で嘘だとわかってる話ですよ?」と言われた上で、嘘の映像を延々流されているのだ。
けれども視聴者たる「お前」=私たちはそれを見るのを止められない。
故郷の景色でヴィーナという理想の美女とピクニックをするパイク艦長の気持ちよさや、全身を緑に塗りたくり「異教」の世界で淫らに踊るヴィーナ(パイク艦長の性癖......)という妄想があまりにも心地いいから。それがパイク艦長にとってむちゃくちゃ気持ちいいことに共感してしまうから。
最初はパイク艦長はどうなっちゃうの?助かるの?とハラハラドキドキしていたが、気づくと艦長が仮想現実=幻覚にとらわれる気持ちを痛いほど理解してしまう。
First, an emotion of protectiveness, now one of sympathy. Excellent.
最初は庇護の感情。それから共感ですか。素晴らしい。
25:56
和訳では「警戒」と訳されてるけど、多分これはヴィーナを保護したいという感情と訳すほうが正しいのでは?
私たちがタロス星人を見ているのか、タロス星人が私たち人間を観察しているのか。ここには「見る」「見られる」の入れ子構造があり、それが脚本家と視聴者との関係と重ね合わされる。視聴者の心の動き、そのすべてをテレパシーのごとく読切り、視聴者の願望を元に彼らが望む話をつくりあげる。そしてそれを見た反応をニマニマと見ている。脚本家がここでやっていることは、まさにタロス星人とまったく同じことだ。
我々視聴者は「標本」だ。スタートレックはオリジナルシリーズのシリーズ1、そのエピソード1が始まる前のプロトタイプ版からそう言い切っているのである。視聴者のことを信じ切っていないとこんなことは絶対にできない。とんでもない作品だぞこれは。
幻覚の中でパイク艦長は言う。
It's funny. Just about 24 hours ago, I was telling the ship's doctor how much I wanted something not very different from what we have here. An escape rom reality, a life with no frustrations, no responsibilities. Now that I have it, I understand the doctor's answer.(......)Cause you either live life, bruises, skinned knees, and all, or you turn back on it and start dying"
おかしいな。たった24時間前には、船医にこう話してたんだ。「現実から逃れて、悩みも責任もない生活がほしい」ってね。いま、まさにその理想の世界にいる――だけど今になって、あの医者の答えがよくわかるよ。.…人生ってのは、擦り傷もアザも全部含めて生きるものなんだ。それを拒んだ瞬間から、人は死にはじめるんだってね。24:20
それでも幻覚を振り切り現実に生きる決意をしたパイク艦長だが、それならなぜ最後で、他の女性クルー2人とともに最初からエンタープライズ号にテレポートせず、一度タロス星人とヴィーナとともに残るのか。
一見、彼は仮想現実ではなく現実を選んだかのように思えるが、実はそこも本当のところは「どちらかわからない」つくりになっている。タロス星人とヴィーナとパイク艦長だけになったところで、ヴィーナの正体が明かされる。それまでに十分な伏線(振り)はあったものの、ヴィーナの真の姿、これが「第三の幻想」として開示され、視聴者は驚くことになる。
この脚本、細かいセリフや設定のつくりこみも尋常ではない。
たとえばパイク艦長の出身地は作中で「モハーベ」だと明かされる。モハーベは超ド田舎のド砂漠である。それが「懐かしい故郷」として描かれるこのたった一つの設定だけで、話を単なる空想ではなく「未来の話」だと視聴者に幻視させている。
タロス人とパイク艦長のやりとりもボキャブラリーの違いが細かいし、女性同士のセリフ回しも大変ニュアンスに富んだものとなっている。
Vina:He doesn't need you. He's aldeady picked me.
Yeoman Colt:Picked her? For what? I don't understand.
Vina:Now, there's a fine choice for intelligent offspring.
Yeoman Colt:Offspring? As in children?
Number One:Offspring as in he's a Adam.Is that it?
Vina:You're no better choice.They'd have more luck crossing him with a computer.
Number One:Well, shall we do a little computation? There was a Vina listed on that ecpedition as an adult crewman. Now adding 18 years to your age then----
ヴィーナ:彼にあなたは必要ないわ。彼は私を選んだんだから。
コルト中尉:選んだ? どういうこと? わからないわ。
ヴィーナ:知的な子孫を残すには私がピッタリって言ってるのよ。
コルト中尉:子孫? 子どもを産むということ?
副艦長ナンバー・ワン:子孫、つまりパイクはアダムだということよ。そういうことよね?
ヴィーナ:あなたも選択肢としては失格ね。これなら彼と計算機=コンピュータを交配させたほうがよっぽどいいわ。
副艦長ナンバー・ワン:なるほど、それなら「計算」してみましょうか。確かに行方不明になった探検隊のリストに「ヴィーナ」という名前はあったけど、彼女は大人の乗客員だった。そこに18年を「足した」らーー
15:53
コルト中尉も副艦長ナンバーワンもともに女性で、実はパイク艦長に好意を抱いている。1964年、宇宙戦艦モノである。女性登場人物が3人というのも相当異例だと思うが、そこでの女性のロールモデルが興味深い。
ヴィーナは男性の妄想をそのまま形にしたようなタイプ。コルト中尉は自然であっけらかんとした素直な若い女性だが、どこか深みにかけるというか、言われたことをそのまま忠実にこなす男性のアシスタントタイプの女性。副館長ナンバーワンは知的で男性に引けを取らないタイプ。この三者でのウィットに富んだ丁々発止のセリフの掛け合い。ゾクゾクする。
しかし「副艦長ナンバーワン」というのも非常に示唆に富む名称だ。艦長が「ナンバーワン」ではなく、乗組員のナンバーワン=一人目だから、一般的に海軍などでは自然とそう呼ばれるみたいなのだが、プログラミングでは0から数字を数えるから、そんな背景もありそうだし、ちょっと深読みすると「女性はナンバーワンでも副艦長にしかなれない」という皮肉のようにも見える。
ちなみに副艦長ナンバーワン役のメイジェル・バレット(Majel Barrett)は、スタートレックの原作者であるジーン・ロッデンベリー(Gene Roddenberry)と後に結婚しているそう。
最後にタロス星人は言う。
She has an illusion, and you have reality. May you find your way as pleasant.
彼女には幻覚が、あなたには現実がある。あなたの選択が少しでも穏やかなものでありますように。
3:07
それでも現実に帰るなんてバカじゃないの?とでも言いたげな、ペラッペラに深さのないタロス星人=脚本家の祈願 Mayを背に、我々はそれでも現実を選びつづけるべきだ。スタートレックオタクなんてやってる暇はねえ。スタートレックというillusionが教えてくれるのはそういうことなのだ。
メモ
*時間の記載はNetflix版の残り時間数。
54:45 「ブリッジに女性がいるとどうも落ち着かん」と船長が言ってしまい、それに対して女性の副長が「は?」って顔をする。それに対し「君なら大丈夫だ」「女性として見てない」と船長が言ってしまい、女性が船長を睨む。宇宙世紀、その開幕から早速セクハラである。
53:32 救助信号のあった惑星に降りることに。6名を選ぶことになったが、船長は副長の女性を残していく。「君は一番の経験者だ」「残って我々を援護してくれ」。
52:58 操作手にアジア系(日本人?中国人?)が一人。女性もいるし若者も年寄りもいる。ただ黒人だけが全然出てこない。
26:23 「標本の人生に幸せをと願っている」。
24:20 "It's funny" "Just about 24 hours ago" "I was telling the ship's doctor" "how much I wanted something" "not very different from what we have here" "An escape rom reality, a life with no frustrations, no responsibilities." "Now that I have it, I understand the doctor's answer"。これに対して女が「お腹空いてるでしょ?」「サンドイッチがあるわよ」。そして船長がいう。" Cause you either live life, bruises, skinned knees, and all, or you turn back on it and start dying"
船長はモハーベ生まれ。
原始的な感情を読めない。
16:33 女性スタッフの服をいきなり開く船長。ここの演出も上手い。銃を取るためだった。
15:53 ここも上手い。女性クルー2人と言い合うビーナ。
3:07 She has an illusion, and you have reality. May you find your way as pleasant.