人を動かす
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父は、自分自身が、人々の想像するような人間関係の手本ではないことを最初から認めていました。父も他の人たちと同様に、これら人間関係の技術を実践することに苦労していました。父は自分自身の過ちを忘れないために、「私が犯した愚かな行為」と名づけたファイルを作成して反省していました。「今日、二人の女性を紹介されたが、そのうちの一人の名前をすぐに忘れてしまった」。自分を無視した店員に我慢ならない時は、「人間性の扱い方を人に教えて金をもらっている自分が、まるで原始人のように野蛮で無能だった」。そして「トム・Gに腹を立てて二十分も無駄にしてしまった。自己鍛錬の本を執筆中の身だというのに」などと。 / 私の両親が口喧嘩をしたあとに、母の友人が我が家を訪ねてきた時の面白い逸話があります。父はまだ怒っていて、足を踏み鳴らしながら家の中を歩き回っていました。お客さんがこの様子に触れると、母はうなずきながら父のほうを見て、「さあ、ご覧あれ、これがあの本を書いた人よ」と言いました。父がしばしば語っていたように、『人を動かす』は他人のためだけでなく自分のために書いたのでした。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 108 「俺は働き盛りの大半を、世のため人のために尽くしてきた。ところが、どうだ。俺の得たものは、冷たい世間の非難と、お尋ね者の 烙印 だけだ」 と嘆いたのは、かつて全米を震え上がらせた暗黒街の王者アル・カポネである。カポネほどの極悪人でも、自分では、悪人だと思っていなかった。それどころか、自分は慈善家だと大真面目で考えていた。世間は、彼の善行を誤解しているのだというのである。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 157 「三十年前に、私は人を叱りつけるのは愚の骨頂だと悟った。自分のことさえ、自分で思うようにはならない。天が万人に平等な知能を与えたまわなかったことにまで腹を立てたりする余裕はとてもない」 と言ったのは、アメリカの偉大な実業家ジョン・ワナメーカーである。 / ワナメーカーは年若くしてこの悟りに達していたのだが、私は、残念ながら、四十歳近くになってやっと、人間はたとえ自分がどんなに間違っていても決して自分が悪いとは思いたがらないものだということが、わかりかけてきた。 / 他人のあら探しは、何の役にも立たない。相手は、すぐさま防御体勢を敷いて、何とか自分を正当化しようとするだろう。それに、自尊心を傷つけられた相手は、結局、反抗心を起こすことになり、まことに危険である。 / 世界的に有名な心理学者B・F・スキナーは、動物の訓練では、よい 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 170 こういった具合に、悪い人間ほど自分のことは棚に上げて、人のことを言いたがる。それが人間の天性なのだ。ところが、これは悪人だけの話ではない。我々もまた同じだ。だから、もし他人を非難したくなったら、アル・カポネやクローリーやフォールの話を思い出していただきたい。人を非難するのは、ちょうど天に向かってつばをするようなもので、必ず我が身に返ってくる。人の過ちを正したり、人をやっつけたりすると、結局、相手は逆にこちらを恨んで、タフトのように、「ああする以外に、方法はなかった」と言うくらいが関の山だ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 227 それからずっとあとの南北戦争の時、ポトマック川地区の戦闘が思わしくないので、リンカーンは司令官を次々と取り替えねばならなかった。マクレラン、ポープ、バーンサイド、フッカー、ミードの五人の将軍を代えてみたが、揃いも揃ってへまばかりやる。リンカーンはすっかり悲観した。国民の半数はこの無能な将軍たちを痛烈に非難したが、リンカーンは〝悪意を捨てて愛をとれ〟と自分に言い聞かせて、心の平静を失わなかった。 「人を裁くな。人の裁きを受けるのが嫌なら」 というのが、彼の好んだ座右銘であった。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 257 他人の欠点を直してやろうという気持ちは、確かに立派であり賞賛に価する。だが、どうしてまず自分の欠点を改めようとしないのだろう。他人を矯正するよりも、自分を直すほうがよほど得であり、危険も少ない。利己主義的な立場で考えれば、確かにそうなるはずだ。自分の家の玄関が汚れているのに、隣の家の屋根の雪に文句をつけるなと教えたのは、東洋の賢人孔子である。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 315 死ぬまで他人に恨まれたい方は、人を辛辣に批評してさえいればよろしい。その批評が当たっていればいるほど、効果はてきめんだ。 / およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 329 人を批評したり、非難したり、小言を言ったりすることは、どんな馬鹿者でもできる。そして、馬鹿者に限って、それをしたがるものだ。 / 理解と寛容は、優れた品性と 克己 心 を備えた人にしてはじめて持ち得る徳である。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 336 人を非難する代わりに、相手を理解するように努めようではないか。どういうわけで、相手がそんなことをしでかすに至ったか、よく考えてみようではないか。そのほうがよほど得策でもあり、また、面白くもある。そうすれば、同情、寛容、好意も、自ずと生まれ出てくる。 「すべてを知ることは、すべてを許すことである」 / イギリスの偉大な文学者サミュエル・ジョンソンの言によると、 「神様でさえ、人を裁くには、その人の死後までお待ちになる」 / まして、我々が、それまで待てないはずはない。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 426 人を動かす秘訣は、この世に、ただ一つしかない。この事実に気づいている人は、はなはだ少ないように思われる。しかし、人を動かす秘訣は、間違いなく、一つしかないのである。すなわち、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること。これが、秘訣だ。 / 重ねて言うが、これ以外に秘訣はない。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 436 シュワブがこれだけの給料をもらう主な理由は、彼が人を扱う名人だからだと自分で言っている。どう扱うのかと尋ねてみると、次のような秘訣を教えてくれた。これは、まさに金言である。銅板に刻んで、各家庭、学校、商店、事務所などの壁にかけておくとよい。子供たちもラテン語の動詞活用や、ブラジルの年間雨量などを覚えるよりも、この言葉を暗記すべきだ。この言葉を活用すれば、我々の人生は、大きく変貌するだろう。 「私には、人の熱意を呼び起こす能力がある。これが、私にとっては何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすには、ほめることと、励ますことが何よりの方法だ。上司から叱られることほど、向上心を害するものはない。私は決して人を非難しない。人を働かせるには激励が必要だと信じている。だから、人をほめることは大好きだが、けなすことは大嫌いだ。気に入ったことがあれば、心から賛成し、惜しみなく賛辞を与える」 / これが、シュワブのやり方である。ところが、一般の人はどうか。まるで反対だ。気に入らなければめちゃくちゃにやっつけるが、気に入れば何も言わない。古い格言にも、「一度の悪行は永遠に語られる。二度の善行はまったく語られない」とある。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 516 お世辞と感嘆の言葉とは、どう違うか。答えは、簡単である。後者は真実であり、前者は真実でない。後者は心から出るが、前者は口から出る。後者は没我的で、前者は利己的である。後者は誰からも喜ばれ、前者は誰からも嫌われる。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 616 イギリス国王ジョージ五世は、バッキンガム宮殿内の書斎に、六条の金言を掲げていた。その一つに、「安価な賞賛は、これを与えることなく、また、受くることなきを期せよ」とあった。お世辞は、まさに「安価な賞賛」である。また、お世辞の定義について、次のように述べた本を読んだこともある。 「相手の自己評価にぴったり合うことを言ってやること」 / これは、心得ておいてよい言葉だ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 624 人間は、何か問題があってそれに心を奪われている時以外は、たいてい、自分のことばかり考えて暮らしている。そこで、しばらく自分のことを考えるのをやめ、他人の長所を考えてみることにしてはどうだろう。他人の長所がわかれば、見えすいた安っぽいお世辞などは使わなくても済むようになるはずだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 629 人の気持ちを傷つけることで人間を変えることは絶対にできず、まったく無益である。これについて古い名言があり、私はそれを切り抜いて、毎日見る鏡に貼ってある。 「この道は一度しか通らない道。だから、役に立つこと、人のためになることは今すぐやろう。先へ延ばしたり忘れたりしないように。この道は二度と通らない道だから」 / 偉大な哲学者のラルフ・ワルド・エマーソンは、また、こうも言っている。 「どんな人間でも、何かの点で、私よりも優れている。私の学ぶべきものを持っているという点で」 / エマーソンにしてこの言葉あり、ましてや我々はなおさらである。自分の長所、欲求を忘れて、他人の長所を考えようではないか。そうすれば、お世辞などはまったく無用になる。噓でない心からの賞賛を与えよう。シュワブのように、〝心から賛成し、惜しみなく賛辞を与え〟よう。相手は、それを、心の奥深くしまい込んで、終生忘れないだろう。与えた本人が忘れても、受けた相手は、いつまでも忘れないで慈しむだろう。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 642 人を説得して何かやらせようと思えば、口を開く前に、まず自分に尋ねてみることだ。「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか」と。 / これをやれば、自分勝手な無駄口を相手に聞かせずに済むはずだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 716 自動車王ヘンリー・フォードが人間関係の機微に触れた至言を残している。 「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」 / 実に味わうべき言葉ではないか。まことに簡単で、わかりやすい道理だが、それでいて、たいていの人は、たいていの場合、見逃している。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 747 今日もまた数千のセールスマンが、充分な収入も得られず、失望し疲れ果てて街を歩いている。なぜか。それは、彼らが常に自分の欲するものしか考えないからだ。我々は、別に何も買いたいとは思っていない。それが彼らにはわかっていないのだ。我々は、ほしいものがあれば、自分で出かけていって買う。我々は、自分の問題を解決することには、いつでも関心を持っている。だから、その問題を解決するのに、セールスマンの売ろうとしているものが役立つことが証明されさえすれば、こちらから進んで買う。売りつける必要はないのである。客というものは自分で買いたいのであって、売りつけられるのは嫌なのだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 824 著名な弁護士にしてRCAの創始者であるオーウェン・ヤングはかつてこう語っていた。 「人の立場に身を置くことができ、人情の機微を理解できる者は、将来困難が降りかかろうとも心配は要らない」 / 本書から〝常に相手の立場に身を置き、相手の立場から物事を考える〟という、たった一つのことを学びとっていただければ、成功への第一歩が、すでに踏み出されたことになる。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 856 繰り返して言うが、友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。 / ところが、世の中には、他人の関心を引くために、見当違いな努力を続け、その誤りに気づかない人がたくさんいる。 / これでは、いくら努力しても、もちろん無駄だ。人間は、他人のことには関心を持たない。ひたすら自分のことに関心を持っているのだ。朝も、昼も、晩も。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 929 ウィーンの著名な心理学者アルフレッド・アドラーは、その著書『人生の意味の心理学』でこう言っている。 「他人のことに関心を持たない人は、苦難の人生を歩まねばならず、他人に対しても大きな迷惑をかける。人間のあらゆる失敗はそういう人たちの間から生まれる」 / 心理学の書はたくさんあるが、どれを読んでもこれほど意味深い言葉には、めったに出くわさないだろう。このアドラーの言葉は、何度も繰り返して味わう値打ちがある。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 940 長年、私は、友達からその誕生日を聞き出すように心がけてきている。もともと私は占星術などまるで信じない男だが、人間の生年月日と性格、気質には何らかの関係があると思うかどうか、相手にまず聞いてみることにしている。そして、次に相手の生年月日を尋ねる。仮に十一月二十四日だと相手が答えたとすると、私は心の中で十一月二十四日、十一月二十四日と何度も繰り返し、隙を見て相手の名と誕生日をメモに書きつけ、家に帰ってから、それを誕生日帳に記入する。毎年正月には、新しい卓上カレンダーにこれらの誕生日を書き込んでおく。こうしておけば、忘れる心配がない。それぞれの誕生日には、私からの祝いの手紙やカードが先方に届いている。これはまことに効果的で、その人の誕生日を覚えていたのは世界中で私一人だったというような場合もよくある。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1032 紀元前一〇〇年に、ローマの詩人プブリウス・シルスがすでに次のごとく説いている。 「我々は、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる」 / 他人に示す関心は、人間関係の他の原則と同様に、必ず心底からのものでなければならない。関心を示す人の利益になるだけでなく、関心を示された相手にも利益を生まねばならない。一方通行ではなく、双方の利益にならなくてはいけない。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1093 動作は言葉よりも雄弁である。微笑みはこう語る。 「私はあなたが好きです。あなたのおかげで私はとても楽しい。あなたにお目にかかってうれしい」 / 犬がかわいがられるゆえんである。我々を見ると、犬は喜んで夢中になる。自然、我々も犬がかわいくなる。 / 赤ちゃんの笑顔も同じ効果を持つ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1122 心にもない笑顔、そんなものには、誰もだまされない。そんな機械的なものには、むしろ腹が立つ。私は真の微笑みについて語っているのである。心温まる微笑み、心の底から出てくる笑顔、千金の価値のある笑顔について語っているのだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1134 人間は他人の名前などいっこうに気にとめないが、自分の名前になると大いに関心を持つものだということを、ジム・ファーリーは早くから知っていた。自分の名前を覚えていて、それを呼んでくれるということは、まことに気分のよいもので、つまらぬお世辞よりもよほど効果がある。逆に、相手の名を忘れたり、間違えて書いたりすると、厄介なことが起こる。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1270 たいていの人は、他人の名前をあまりよく覚えないものだ。忙しくて、覚えるひまがないというのが、その理由である。 / いくら忙しくても、フランクリン・ルーズヴェルトよりも忙しい人はいないはずだ。そのルーズヴェルトが、たまたま出会った一介の整備工の名を覚えるために、時間を割いている。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1320 フランクリン・ルーズヴェルトは、人に好かれる一番簡単で、わかりきった、しかも一番大切な方法は、相手の名前を覚え、相手に重要感を持たせることだということを知っていたのである。ところで、それを知っている人が、世の中に何人いるだろうか。 / 初対面の人に紹介され、二、三分間しゃべり、さて、さようならをする時になって、相手の名を思い出せない場合がよくあるものだ。 「有権者の名前を覚えること。それが、政治的手腕というものである。それを忘れることは、すなわち、忘れられることである」。これは、政治家の最初に学ぶべきことである。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1348 私たちは、名前に込められた魔法を意識すべきである。名前は、当人だけが所有するものであり、他の誰のものではないことを認識すべきなのだ。名前によって、その人は他の誰とも違う存在となる。私たちが伝えようとする情報や依頼は、その人の名前とともに伝えることで、特別な意味を持つようになる。給仕から会社重役に至るまで、私たちが他人と接する時、名前は魔法のように作用するのである。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1371 「どんなほめ言葉にも惑わされない人間でも、自分の話に心を奪われた聞き手には惑わされる」 / これはジャック・ウッドフォードが著書『恋する他人同士』の中で述べた言葉だが、私は話に心を奪われたばかりでなく、〝惜しみなく賛辞を与えた〟のである。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1406 商談の秘訣について、ハーバード大学の元学長チャールズ・エリオットは、こう言っている。 「商談には特に秘訣などというものはない。ただ、相手の話に耳を傾けることが大切だ。どんなお世辞にも、これほどの効果はない」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1413 人間の行為に関して、重要な法則が一つある。この法則に従えば、たいていの紛争は避けられる。これを守りさえすれば、友は限りなく増え、常に幸福が味わえる。だが、この法則を破ったとなると、たちまち、果てしない紛争に巻き込まれる。この法則とは。 「常に相手に重要感を持たせること」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1658 人間関係の法則について、哲学者は数千年にわたって思索を続けてきた。そして、その思索の中から、ただ一つの重要な教訓が生まれてきたのである。それは決して目新しい教訓ではない。人間の歴史と同じだけ古い。二千五百年前のペルシアで、ゾロアスターはこの教訓を拝火教徒に伝えた。二千四百年前の中国では、孔子がそれを説いた。道教の開祖、老子もそれを弟子たちに教えた。キリストより五百年早く、釈迦は聖なる川ガンジスのほとりで、これを説いた。それよりも千年前に、ヒンズー教の聖典に、これが説かれている。キリストは千九百年前にユダヤの岩山で、この教えを説いた。キリストは、世の中で最も重要な法則と言える次の言葉で説いた。 「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1664 生来私は大変な議論好きだったので、この教訓は実に適切だった。若い頃、私は世の中のあらゆるものについて兄と議論した。大学では論理学と弁論を研究し、討論会に参加した。ミズーリ出身者らしく、おそろしく理屈っぽくて、証拠を目の前につきつけられるまでは、めったに降参しなかった。やがて私は、ニューヨークで討論と話し方を教えることになった。今から考えると冷や汗が出るが、その方面の書物を書く計画を立てたこともある。その後、私は、あらゆる場合に行なわれる議論を傾聴し、自らも加わってその効果を見守ってきた。その結果、議論に勝つ最善の方法は、この世にただ一つしかないという結論に達した。その方法とは、議論を避けることだった。毒ヘビや地震を避けるように議論を避けるのだ。 / 議論は、ほとんど例外なく、双方に、自説をますます正しいと確信させて終わるものだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1851 議論に勝つことは不可能だ。もし負ければ負けたのだし、たとえ勝ったにしても、やはり負けているのだ。なぜかと言えば、仮に相手を徹底的にやっつけたとして、その結果はどうなる。やっつけたほうは大いに気をよくするだろうが、やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。そして、 「議論に負けても、その人の意見は変わらない」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 1858 自分が悪いと知ったら、相手にやっつけられる前に自分で自分をやっつけておいたほうが、はるかに愉快ではないか。他人の非難よりも自己批判のほうがよほど気が楽なはずだ。 / 自分に誤りがあるとわかれば、相手の言うことを先に自分で言ってしまうのだ。そうすれば、相手には何も言うことがなくなる。十中八九まで、相手は寛大になり、こちらの誤りを許す態度に出るだろう。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2153 どんな馬鹿でも過ちの言い逃れぐらいはできる。事実、馬鹿はたいていこれをやる。自己の過失を認めることは、その人間の値打ちを引き上げ、自分でも何か高潔な感じがしてうれしくなるものだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2193 人と話をする時、意見の異なる問題をはじめに取り上げてはならない。まず、意見が一致している問題からはじめ、それを絶えず強調しながら話を進める。互いに同一の目的に向かって努力しているのだということを、相手に理解させるようにし、違いはただその方法だけだと強調するのである。 / 最初は、相手に〝イエス〟と言わせるような問題ばかりを取り上げ、できるだけ〝ノー〟と言わせないようにしておく。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2335 話し上手な人は、まず相手に何度も〝イエス〟と言わせておく。すると、相手の心理は肯定的な方向へ動きはじめる。これはちょうど、玉突きの玉がある方向へ転がり出したようなもので、その方向をそらせるには、かなりの力がいる。反対の方向にはね返すためには、それよりもはるかに大きな力がいる。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2344 人類の思想に大変革をもたらしたアテネの哲人ソクラテスは、人を説得することにかけては古今を通じての第一人者である。 / ソクラテスは、相手の誤りを指摘するようなことは、決してやらなかった。いわゆる〝ソクラテス式問答法〟で、相手から〝イエス〟という答えを引き出すことを主眼としていた。まず、相手が〝イエス〟と言わざるをえない質問をする。次の質問でもまた〝イエス〟と言わせ、次から次へと〝イエス〟を重ねて言わせる。相手が気づいた時には、最初に否定していた問題に対して、いつの間にか〝イエス〟と答えてしまっているのだ。 / 相手の誤りを指摘したくなったら、ソクラテスのことを思い出して、相手に〝イエス〟と言わせてみることだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2416 フランスの哲学者ラ・ロシュフコーの言葉に、こういうのがある。 「敵をつくりたければ、友に勝つがよい。味方をつくりたければ、友に勝たせるがよい」 / その理由はこうだ。人間は誰でも、友より優れている場合には重要感を持ち、その逆の場合には、劣等感を持って羨望や嫉妬を起こすからである。 / 自分の自慢話は極力抑えよう。謙虚になろうではないか。そうしていれば間違いない。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2516 相手は間違っているかもしれないが、相手自身は、自分が間違っているとは決して思っていないのである。だから、相手を非難してもはじまらない。非難は、どんな馬鹿者でもできる。理解することに努めねばならない。賢明な人間は、相手を理解しようと努める。 / 相手の考え、行動には、それぞれ、相当の理由があるはずだ。その理由を探し出さねばならない。そうすれば、相手の行動、相手の性格に対する鍵まで握ることができる。 / 本当に相手の身になってみることだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2623 ジェシー・ジェイムズも、ギャングのダッチ・シュルツや二丁拳銃のクローリー、アル・カポネたちと同じく、自分では理想主義者だと思っていたらしい。あらゆる人間は、自分自身を立派な没我的な人物だと思いたがるのだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 2780 もちろん、直接的に相手に伝えなければならない時もある。自分の望むことを伝えるには、機転の利いた方法はあるが、意図を台なしにする言葉がある。それは〝しかし〟という言葉だ。この言葉は毒である。ほめ言葉を装って、相手に対する批判を巧妙に覆い隠す言葉だからだ。 「その服は素敵ですね。しかし、色があなたに合っていませんね」とか「最後の試験に見事合格しましたね。しかし、また落第したんですって」といった具合だ。〝しかし〟というほんの一言が、意味を大きく変えてしまうのだ。〝しかし〟という言葉が出てくると、それがどんなほめ言葉であれ、言った人間の本心が表われる前ぶれになってしまう。砂糖をまぶしたような甘い言葉は、最初は純粋なほめ言葉であっても、置きっぱなしにされた牛乳のように酸っぱいものになってしまうのだ。〝しかし〟という言葉はわざわいのもとであり、この言葉を受け取る相手はそのことを知っているのだ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3075 相手の顔を立てる。これは大切なことだ。しかも、その大切さを理解している人は果たして何人いるだろうか。自分の気持ちを通すために、他人の感情を踏みにじっていく。相手の自尊心などはまったく考えない。人前もかまわず、子供や従業員を叱り飛ばす。もう少し考えて、一言二言思いやりのある言葉をかけ、相手の心情を理解してやれば、そのほうが、はるかにうまくいくだろうに。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3198 調停人なら誰でも知っていることだが、要はすべて人の面目を保つということなのである。 / たとえ自分が正しく、相手が絶対に間違っていても、その顔をつぶすことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終わる。あの伝説的人物、フランス航空界の先駆者で作家のアントワーヌ・ド・サンテグジュペリは、次のように書いている。 「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことを言ったり、したりする権利は私にはない。大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3221 たとえば、十九世紀のはじめ、ロンドンに作家志望の若者がいた。彼にとって有利と思えるような条件には何一つ恵まれていなかった。学校へは四年間しか通っていないし、父は借金のために刑務所入りをしている。三度の食事にも事欠くありさまだった。そのうち彼は仕事にありついた。ネズミの巣窟のような倉庫の中で、靴墨の容器にラベルを貼る仕事だ。夜は気味の悪い屋根裏で、二人の少年と一緒に眠った。その二人というのは、貧民街の浮浪児である。彼は自信がなかったので、誰にも笑われないように、人の寝静まった頃を見はからってそっとベッドを抜け出し、書き上げた小説の処女作を郵送した。次々と作品を送ってみたが、全部送り返されてくる。だが、とうとう記念すべき日がめぐってきた。ある作品が採用されたのだ。原稿料は一銭ももらえなかったが、編集者からほめられた。彼は認められたのである。彼は感激して、あふれる涙をぬぐいもせずに、街を歩きまわった。自分の作品が活字になって世に出たということが、彼の生涯に大変革をもたらした。もしそれがなかったら、彼は一生を穴倉の中で過ごしたかもしれない。この少年の名は、チャールズ・ディケンズ。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3243 我々には、他人から評価され、認められたい願望があり、そのためにはどんなことでもする。だが、心のこもらないうわべだけのお世辞には、反発を覚える。 / 重ねて言う。本書の原則は、それが心の底から出る場合に限って効果を上げる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3282 これは、子供だましのような気がするかもしれない。だが、ナポレオンも同じようなことをやった。彼は、自分の制定したレジオン・ドヌール勲章を一万五千個もばらまいたり、十八人の大将に〝元帥〟の称号を与えたり、自分の軍隊のことを〝大陸軍〟と呼んだりした。歴戦の勇士を〝玩具〟でだましたと非難されると、彼は答えた。 「人間は玩具に支配される」 人を動かす 改訂文庫版 / D・カーネギーand山口博位置: 3486