ガソリンの揺れかた
https://youtu.be/qGjmtdqRZSc?si=jPMAFaD6g7ScRUKq
https://open.spotify.com/intl-ja/track/0ezpcwvsDaTy22eoEP7fuu?si=fb0f1f0f329341fc
あの細く美しいワイヤーは はじめからなかったよ
である。「あの細く美しいワイヤーは」と歌われたらリスナーはそれをイメージしてしまう。だって「あの」とまで言ってるし。この「あの」がとにかくキモで、そのおかげでリスナーに歌い手と同じものが回避不能で「見えて」しまうのだが、今の今、お前が見せたその映像をその直後で「はじめからなかったよ」と全否定。なかったんかーい! 結果、「あの細く美しいワイヤー」を幻視したのはリスナーと歌い手だけになり、ここでその二者の間に秘密の共犯関係が築かれるため、一気に歌の世界に取り込まれてしまう。 その中に落ちていた人形が
もすごい。ガソリンの「香り」で、リスナーの嗅覚にこれ以上ない「あの」「あれ」を想起させるのだが、それは「臭い/匂い」ではなく「香り」。映像は無。映像ではなく嗅覚から歌に入るこのセンス......。そこで「その中に落ちていた人形」を「ワイヤー」と同じようにリスナーに「見せて」、それが「マッチ売りの少女に見える」と、ここでも浮かび上がった人形のビジョンを一瞬で消しさりすぐさま他のイメージに変容してしまう。ガソリンにマッチで引火して、そのままBメロとかすっ飛ばしてサビの大爆発を導く構成も見事としかいいようがない。
切なさだとか はかなさだとか 運命だとか 言うけれど
そんな言葉に興味はないぜ ただ鉄の塊にまたがって
揺らしてるだけ 自分の命 揺らしてるだけ
有名なこのサビも、J-POP的な世界観をつっぱねるかのようでカッコいいのだが、ただ鉄の塊にまたがって自分の命を揺らしてるだけというその在り方は、これ以上なく切なくて、はかない、「今ここ」であり、これこそ「日本人」が好きそうな刹那のきらめきだったりするわけで、そういう意味でどこまでもJ-POPでありつつ、ロックなのが素晴らしい。