帰路
インクジェットプリント / 紙
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景色からはじまり、景色で終わるわたしの旅のよろこびというものは、わたしにとってのよろこばしい風韻にほかならない。
旅の帰り道の景色は一層に尊いもの。はじまりは、目に映るものすべてが新鮮で真新しい空気だ。帰路につくまで、その風土を知り、土地の美しさを知り、うつくしいものの在処を知る。樹氷の満ちる雪山、遠くの山並みの静けさ、落ち着いた海辺、岩にぶつかる波の音、その近くにある閑静な水族館。水の匂い、山の匂い、草の匂い、土の匂い。それらの平凡な記憶。訪れた地のあしあとを拾うように帰路を辿る。同じ道を戻るのは退屈だから、遠回りをするのもいいだろう。歩くたびに焼きついた景色と真新しい小景がうつる。そのとき、帰ることに薄寂しい感情に身を包まれたのならば、わたしはわたしが求めていた本当の景色を知ることができると感じる。
景色の表情をしっかりと見つめたのち、ファインダーをのぞき、時間をかけて慎重にシャッターを切る。
帰路を辿る儚さや、空虚なものにある純粋な美しさ、風韻を写真として表現した。写真の延長線上にある景色を想像し、その地を体現する。きっとあなたも訪れたことのない景色の風韻に思いを馳せ、帰路につくのだろう。