ライオンのおやつ
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無駄なことなんて、ないんだよ。
ひとつも、意味のないことなんて、ないよ。
ベアさんとメアリーが口をそろえる。
癌になったことで気づけたこと。それは、健康であることのありがたみや、お金のありがたみや、友人たちが周りにいたものが、いかに貴重な存在か。確かに私は、そのことを癌になってから思い知ったのだ。
あんなことをされたのに、それでもぬいぐるまたちは私に笑いかけてくれた。その優しさに気づいた時、私の中で何かが吹っ切れた。こんな荒廃した心のまま、人生を終えてはいけないとおもった。いや、悟ったのだ。
百ちゃんと会う前までの私は、まだ人生が続いているのに、死ぬことばかり考えていた。それが、死を受け入れることだと思っていた。でも、百ちゃんが教えてくれたのだ。死を受け入れるということは、生きたい、もっともっと長生きしたいという気持ちも正直に認めることなんだ、って。そのことは、私にとって、とても大きな気づきをもたらした。
死を受け入れる、ということは、自分が死にたくない、という感情も含めて正直に認めることだった。少なくとも、私にとってはそうだった。
一日、一日を、ちゃんと生き切るとこ。どうせもう人生は終わるのだからと投げやりになるのではなく、最後まで人生を味わい尽くすこと。
端から端までクリームがぎっしり詰まったあのチョココロネみたいに最後まで生きること、今の私の目標だった。
バナナ
植物だって笑うんだと初めて知った。そんな尊い命を私はこれまで、当たり前のように食べていた。パソコンで仕事をしながら、ろくに感謝もせず、味わいもせずに口に運んでいた。途中で食べ忘れて残ったバナナを、平気でゴミ箱に捨てていた。私には、なんの罪悪感もなかった。でも、今ならわかる。バナナの命も、私の命も、等しく尊いということが。
今を生きているということ
今というこの瞬間に集中していれば、過去のことでくよくよ悩むことも、未来のことに心配を巡らせることもなくなる。私の人生には、『今』しか存在しなくなる。そんな簡単なことにも、ここまで来て、ようやく気づいた。だから、今が幸せなら、それでいい。
人は生きている限り変わるチャンスがある。あれは、本当だった。
おやつは、心の栄養、人生のご褒美だと思っています。
#小川糸 #小説