きらきらひかる
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登場人物
睦月:私の夫。医者。星を眺めるのが習慣。両眼ともに1.5。女性を抱くのが好きじゃない。潔癖症。
私(笑子):精神病。アルコール中毒。
紺くん:睦月の友達?コロという柴犬を飼っている。
瑞穂:笑子の友達
羽根木さん:笑子のボーイフレンドだった
佑太くん:
南沢さん:瑞穂の主人
水を抱く
水を抱くようなものだろう。
どうしていつもこうなのだろう。睦月は優しい。そうしてそれはときどきとても苦しい。
青鬼
両親に会って、赤ちゃんはどうなってるのか訊かれる。一人息子だからどうとか。
エビアンの壜
笑子が鬱になり、泣き始めた。
きりん座
ショーコちゃん。ほら、君の好きなフリージアとシュークリームだよ
モロゾフのミニシューだ、と夢の中で私は思った。
何味?
昔の恋人はにっこり笑う。
もちろん、君の好きなコアントロー味さ
コアントロー味!私はすっかりうれしくなった。
どうしたの。はじめてだね、病院に来るなんて
私は立ち上がり、羽根木さんの夢を見たことや睦月にとても会いたかったこと。バスを間違えて手間取ってしまったことや看護婦の感じが悪かったこと、ロビーで待っている間が本当に不安で寂しかったことなんかを一体どうきり出したらいいのかわからなかった。
気をきかせて、先に部屋に引っ込み、私は睦月のベッドにアイロンをかけた。こういう結婚があっても良いはずだ。と思った。何にも求めない何にも望まない。何にもなくさない。何も怖くない。唐突に水を抱くと言う義父の言葉を思い出した。
訪問者たち眠れる者と見守る者
子供のパーティーのようだった。そして、笑子が、大きなカゴに、山盛りの野菜を運んできたときには、そこにいた。誰もが口を開けたにんじんや大根はかろうじてぶつ切りになっていたものの、きゅうりもレタスも丸のまま水をしたたらせていたのだ。
ドロップス
洗面台にグラスを置き、寝室からパジャマと新しい下着を取ってきてみだれカゴに入れる。お湯がまだ5分目までしか入っていなかったので、リビングに引き返して紫色のおじさんに歌を歌った「雨」と「からたちの花」とキョンキョン歌って、お風呂場に戻ると、お湯はぴったり八分目だったウイスキーを飲みながらお風呂に入る。電話はコードを脱衣所まで引っ張ってパジャマの上に置いておいた。
私は一方的にまくし立て、昼寝をすると言ってベッドにもどった。そしてシーツの間にうずくまって泣いた。自分で自分がコントロールできないのだ。声を殺して泣いていたので、喉と目と鼻がじんじん痛く、熱く、おえつのたびに苦しくて、ぐしゃぐしゃになった。しばらくするとドアが細く開き行ってくるよと言う睦月の声がした。
私はうつむいた。睦月じゃだめなのだ。何にもならない。私はどんどんむつきに頼ってしまう。私が黙っていると患者の人気結構あるんだけどなと言って笑う。むつきらしくもなく、月並みな冗談があまりにも取っ手つけたような感じだったので、私が胸がしわしわになった。
昼の月
誰にでも精神の波というか、リズムというか、そういう起伏があるのだし笑子はそれが少し大きいだけなのだと僕は思う。変に心配して騒ぎ立てないほうがいいと思ってきたし、自然体の笑子を好きでもあった。しかしだからといってこんなに放っておいてよかったのだろうかと思う。以前かかっていた医者に行ったり、樫部さんまで訪れたりして何とか事態を好転させようとする笑子の気持ちが、僕にはひどく痛々しかった。彼女はいつも1人で戦っている。
水の檻
あんなに善良なむつきを悲しませるなんて。もちろんそれはおかど違いと言うものだろうが、私は昔の不良少女がやったみたいに、その人(の魂)を体育館の裏にでも呼び出して、ちょっと文句をつけたい気持ちになるのだ。死ぬなら勝手にしなさい。むつきを巻き込むのはやめてちょうだい。
私は体中の血が見えてくるかと思った。すぐに帰ってむつきをぐちゃぐちゃに殴ってやりたいと思った。そう思ったら、涙が出て目をぎゅっとつったら。涙の粒がちぎれて。とても暑かった。許せないと思った。絶対許せない。
睦月が良い。私は少しふるえた。怖い位だった。はっきりとは断言できる。この時私は寝たふりをしたままでしか帰れなかった。どうしても。
銀のライオンたち
どうぞと言うと、僕のグラスを取り、にっこりしてから1口啜る。
キュラソーとトニックウォーターと、それから睦月の味がする
七月、宇宙的になるもの
私は寝室に引き返しクロゼットを開けた。睦月の背広を1着ずつ取り出して、丹念に眺める。それを着ている睦の姿を思い出し、睦が確かに実在の人物で私の夫なのだと納得できるまで縞模様の部屋の中で私は睦の服をベッドに並べ続けた。
たくさんのジャケットと数本のジーンズTシャツを何枚かと靴下を2足並べたところでようやく少し安心したので、私はシャワーを浴びサラダを食べた。サラダには赤かぶがたくさん入っていてシャリシャリしていておいしかった。早く睦月が帰ってくればいいのにと思いながら、時計を見るとまだ11時前だ。
水の流れるところ
本当に痛々しい泣き方だった。とりあえず肩を抱こうとすると逆に笑子が僕の首にしがみついてきた。泣きながらびっくりするほど、強い力で呆然としている。僕の右の頬や首筋が笑子の息と、涙で痛いほど熱く濡れていく。笑子は両手で僕の髪の毛を鷲掴みにし、そのままずいぶん長いこと泣いていた。首に噛み付かれているみたいで、僕はすべての思考が止まり、腕の中でこんなにも無防備な笑子の柔らかい体を、じっと抱いていた。永遠のように長い閉ざされた時間だった。