Charkha
喫茶チャルカの話
早速ブダペストでも京都でもない、大阪にかつてあった(つまり今はもうない)喫茶の話を書こうとしている。自分の喫茶好きのルーツを辿ってみると結局この店ということで、初日の記事として相応しい気がしている。
2008年の春は人生の中でも最悪の時期だった。みんな三月に高校を卒業して華々しい大学生活を始める中、私は一人浪人生活を始めることになる。高校の時から塾も行っていたし全く勉強してなかったわけでもなかったが、未だ大人になっても引きずっている悪い癖「直前になると怖くて行動できない(つまり受験の場合は勉強しない)」が出てしまい、最後の追い込みができなかった。その上、自分の学力相応の大学を受験させてもらうこともできず、到底不可能なところに出願して見事砕け散ったわけである。滑り止めを受けることも許されていなかったので、自動的に浪人コースだったわけだ。
浪人生活は自由で楽しいものだと誰かが言っていたが、私の場合はろくに友達も勉強もできなかったので、全くの暗黒時代だった。毎日人が多い大阪駅まで出て、さらに乗り換えて難波まで行くのも億劫だったし、予備校に行ったら行ったで、見た目や学力の高さでキラキラした人たちで溢れかえっていたので、その場に存在するだけで辛かった。
そんな鬱々とした毎日を救ってくれたのが堀江の街並みだったと思う。堀江は今でこそ少し廃れ気味かもしれないが、昔はファッションストリートとして有名な場所で、服飾はもちろん喫茶・カフェ、雑貨、家具やレコード屋など変わった店がたくさんある面白い地域であった(廃れ気味と書いたが、2019の夏に再び行ってみての感想は、一回廃れて再び盛り返してるようにも思う)。堀江の隣は心斎橋や難波といったメインストリームの買い物ができるところであるが故に、堀江はそういう主流のビジネスからは少し外れたちょっと変わった店主が多く、故に客層も変わった人々であった。私はそういう人々やその人々の周りにある物に惹かれるようになった。
喫茶チャルカは堀江の中でも北に位置する東欧雑貨のお店であった。メインは雑貨だが、店舗の半分は喫茶だった。今でこそカフェに雑貨が置かれている店は山ほどあるだろうが、ここが私の初めて経験した雑貨&喫茶店である。ここでの東欧雑貨の出会いが後々の人生にも影響を与えていることは間違いないが(なんせ自身今ハンガリーに住んでるわけだし)、喫茶の体験も中々忘れがたいであった。
お気に入りの喫茶ということで書いてあるが、そこまで通ったわけでもない。この気持ちをわかってくれる人がいるのかわからないのだが、好きすぎる場所には恥ずかしくてそんなに頻繁に通うことができない。チャルカはまさにそんな場所で、雑貨を見に行ったことは多いが、喫茶を利用してじっくり時間を過ごしたことは三回ぐらいしかないように思う。
喫茶のメニューは一応東欧の食べ物を提供していたが、本格東欧料理というわけでもなく、手作りの東欧チックな定食やケーキというものだった。私が好きだったのはその絶対的な意味での「食べ物のクオリティ」ではなく、ちょっと古いビルを改装して、中には東欧の古い歴史がいっぱい詰まった雑貨や紙が置いてある空間で、(うろ覚えだが確か)東欧の食器と共に提供される食事や飲み物を食べるという経験が、そこに行かないと体験できない唯一無二のあると同時に、なぜか浪人時代の糧になっていたと思う。
当時お金も全くなかったので、ボロボロに見えて結構高い東欧雑貨を買い漁ることはできなかったのだが、新たな価値観を吸収できたという意味ではお金に変えられない貴重なものを与えてくれたお店である。
ちなみにチャルカは閉店したのではなく移転して、今は喫茶なしで東欧雑貨の販売やあとオリジナルの商品の制作に力を入れているようだ。一度だけ今の空堀商店街のお店にも行ったが、商品のラインナップは似ているところもあったけれど、昔の雰囲気とはまた違ったお店になっていた。
閉店したけどまだ残っている食べログのページから当時のお店の様子が伺える。
お店情報
N34.6728178,E135.5129536,Z15 CHARKHA
チャルカさんは書籍も出版されているので、雑貨とか喫茶の話の詳しくは下記を。