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01: 朱谷『月の時計』
形はよいと思います。ただ、主題がやや分量に対して小さいかも。
世界観的に、政治や技術がスケールと対応できていない気もします。精神分析あたりも定型的ではないか、と。
02: 雨露山鳥『法華経異聞』
小説としてはこれでよろしいと思います。
問題は仏教の扱い部分で、それを大事にしている人々がいる場合に、扱いは慎重にならざるをえません。
タイトルとモチーフにダイレクトに法華経と入っており、仏陀(機関)も登場する以上、教義の咀嚼度を測られることになるでしょう。
法華経における荘厳さへの対応はよいと思いますが、
解脱とブラックホールの関係は仏教理解としては厳しいでしょう。
そこのところ、「作風」としての調整が必要であるかと思います。
たとえば、今回出ている『楽園の羊飼い』は旧約聖書モチーフですが、この種の違和感を感じません。
03: 宿禰『帰還』
構成や形式、盛り上がりの配置など、よいと思います。
題材と設定を丁度使い切った感じなので、(この前提を置いたときの)完成形だと思います。
(ということは、改良を試みる場合、前提から組み直す必要があるということでもあります)
会話はもう少し誰が喋っているか明示した方が親切ではないでしょうか。
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●04: みよしじゅんいち『鏡像宇宙』
あまりにもニュートリノなのと、反宇宙の設定が甘いのと、個人の天才っぷりがきになりますが、
先の見えなさで面白かったです。
「できている」と思います。
ただ、「キチンとする」のは大変かもしれません。
素朴な感想として、タキオンと過去遡行は相性が悪そうです。
●05: やらずの『窒息』
小説が非常にうまいです。
ただ、もっと構造や形、段取り、仕掛けがあってもよいのではと思います。
●06: 広海智『楽園の羊飼い』
非常に達者です。
題材と内容と形式とあっていると思います。
(したがってノビシロは前提の選択次第となりそうです)
昔の「ぶ〜け」みたいなちょっと懐かしい感じが。
07: 蚊口いとせ『お裾分け』
ガジェットが楽しいですが、
楽しいガジェットというのは息切れしがちで、もたせるには工夫が必要です。
(例:ゾンビものはシリーズ化されるとゾンビが後景にひいていき、人間ドラマしか残らなくなる。)
ガジェットものは強いオチとセットでつくるのがおすすめです。
08: ゆきたにともよ『夢をのぞく』
テーマはよいと思います。
ただ、段取りが一本調子で、ガジェットの設定も弱いです。
そのガジェットが可能な世界の科学のレベルであるとか。
09: 木江巽『ファンシークロスとこの部屋の僕』
文章はよいと思います。
異常設定からの連想型で、オチやひねりが弱いです。
設定と落ちをセットで工夫するのがよいと思います。
(設定が人生の比喩ということはあるかもしれませんが、その場合、それだけで読ませる工夫が必要ではないでしょうか)
10: 渡邉清文『アーティフシャル・ビースト』
クラシカルです。
個人の能力と、テクノロジーのレベル、世界設定などを詰める必要がありそうです。
段取りにも山が必要かと。
ビジュアルのイメージはよいですが、小説だとそこまで効果的でもないです。
何を売りにするのか、ではないでしょうか。
11: 大庭繭『まばたきほどの永遠』
島が狭いのと、主人公の計画がふんわりとしているところが難ではないでしょうか。
(たとえば、島に上陸してなにをするつもりだったのか、も)
博士の計画もふんわりしているので、全体に設定のために配置された感が強いです。。
12: 中野 伶理『最後の一服』
基本的に、説明が書いてあるので、濃淡や緩急が不足しています。
ここまで構想ができてから、配置や印象的なシーンなどを塩梅する必要があるでしょう。
13: 小野 繙『【未完】放屁」
面白いんだけど落ちるかどうかと、
これでデビューしていいのかっていう。
14: 矢島らら『生命のパズルのお手入れ時期です』
ディテールはよいのですが、緩急の調整がうまくいっていないようです。
平坦に進行するわりに最後はかなり遠くまでいってしまうので、段取りが必要ではないでしょうか。
「優勢遺伝」は言わなくなったかもしれません。
15: 谷江リク『このニュースを読んだのが未来人だったとして』
展開がうまくとれていないので、形が変になっています。
一旦整理して、場面ごとに形を整えるべきでしょう。
16: 櫻井夏巳『蛍光家族』
段取りがうまくいっていないので、唐突さの連続になっています。
要素を拾い上げて、説明のつながりを確認し、効果的な提示の方法を模索した方が良いでしょう。
17: 池田 隆『メディア異聞』
戯曲なので、小説にするにはそれなりの手間がかかるでしょう。
戯曲であるなら、売り出し方が思案のしどころとなるでしょう。
18: 小林 滝栗『クオンタム・グラフィティ』
本当にグラフィティなので、まとまりの付け方ではないでしょうか。