ゲンロンSF講座第5期第3回梗概へのコメント
ゲンロン 大森望 SF創作講座 第5期
第3回 「自分の得意なものを書きなさい」
梗概へのコメント
今野明広『中国語を読んだだけなのに』
あいつって誰?
謝らない、が特につながらないですね。
つかみと展開は大丈夫なので、まずはふつうにつないで、畳めばよいのではないでしょうか。
投げない。
六角大輔『逆回し死刑執行人』
逆行してよみがえっていく、の部分はよいと思います。あとは、筆力の問題となるので……。
気になるのはサンソンで、そこが薄っぺらくならないかが肝であるかと思います。
有名人なので、資料はそれなりにあって、フランス語のものなど眺める気持ちがあるか、というところでしょうか。
歴史ものじゃないので、そこまでは要らないのですが、とりあえず、フランス語での wikipedia の項目でも見て、自分の中のイメージとのズレがどれくらいあるかをためす、くらいをした方が安全であるかと思います。
山田浅右衛門と置き換えることはできないのかとか(こちらはこちらで大変ですが)。
あるいは、大量殺人鬼ではいけないのか、等の検討をすると、よいと思います。
夢想真『黒い薬罐』
梗概で完結している感があるので、ええと、5,000-10,000を目指すということですが、それは、原稿用紙12-25枚ということで、
そこまでは伸ばせないのではないでしょうか。
この内容で多分一番効果的なのは、文章を工夫しまくる800字程度の掌編型ではないかと思います。
ある程度の長さにするということだと、展開を転がすか、ヤカンを転がすだけでは飽きるので、途中でヤカンが壊れるとか、なにかそういう段取りが必要であるかと思います。最後に地球が壊れるとかだと星新一風になりますが(つまりはやや古風)。
あいだ『女神の死を待つ女』
あ? ってなる導入部と展開はよいと思います。
が、心理ものでもあり、人間関係が多少込み入るので、叙述が錯綜しそうな予感がします。
(単純に、今誰がしゃべっているかをどう整理するかレベルの話として)
終わりが定型なので、そこをどうして、どう段どるかでしょうか。
卒塔婆に腰掛けている、はよいと思うので、深草の少将周囲をどうするか、ではないでしょうか。
フジキ ヒデキ『サフィール踊り子殺人事件』
タイトルは覚えられそうな気が。
ディテールは面白そうなのですが、背景をつなぐ要素がとても弱いので、ふわっとした話になりそうではあります。
社会派っぽくして切り抜ける手はあるかもしれませんが、伸びないような気はします。
みんな操られていたんだ、耳の中に指示を伝えるイヤフォンが型は、先行例が大量にあるので、そちらのサーベイからでしょうか。
葉々「けりのあるとき」
僕、これ系をためしてみたことがあって、
たくさん書くにはかなり根気が必要だと思います。
ウリポみたいにこれだけで押していく手もありますが、
擬人化するか文法史を投入するか、『虚構船団』にするか、というのがまずは浮かぶところです。
原 里実「神とわたしの一年間」
よろしいのではないでしょうか。
やや、既視感がなくはないですが、あとは、文章次第だと思います。
長谷川 京「量れない<親|子>のパラドックス」
なんかよくわからないですが、わからなくもない。
リアリティレベルをどこに設定するかが肝で、それによって空中分解するかどうかが決まるのではないでしょうか。
理屈があとづけあとづけになっていきそうな気配がするので、「それを設定すると、一応全部の筋が通る何か」を設定できるのが理想です。
そうして、その事象がなぜそこでだけ特異的に発生できたのか、他では起こりえないのか、に対する手当ても必要ではないでしょうか。
ハードルは高目であると思います。
駆乱 直之「皆殺しの雪」
イメージ喚起力は高いと思うのですが、雑然としています。
ええと、週刊連載の漫画であれば、こういう設定と展開がありだと思うのですが、
枚数の規定されている小説の場合、うまく収まらないかもしれません。
物語を展開させるために、ガジェットがあとづけで逐次投入される感も強いです。
全体に、漫画であれば絵力と勢いで切り抜けられるシーンが多いと思うのですが、文章でやるとアラが目立つ、という結果になりそうではあります。
一旦、流れを整理して、全体の設定をつくって、それぞれの絡み合いを考える、という作業になるのではないでしょうか。
方野佐保「妖精の舞う海」
岩をよけると、そこに邪馬台国への入り口が! あったのだ!
みたいな雰囲気を感じないでもないので、
最初から(それとは知られぬように)きちんと段どっておいた方がよろしいかと思います。
謎の開示ものなので、どの段階でどの謎を、何のきっかけで、というのがうまく連動するような工夫が必要となりそうです。
何をどう配置するかというパズル。
岸辺 路久「サンアイ・イソバ」
島がヤバい。もうふつうには生活を送れないくらいにヤバい。
なので、盛大に神話的な雰囲気にするか、余程強力な語り(まあ、方言とか……)にするかしないと、
お話の枠がもたないとおもいます。
イメージ喚起力があるのは間違いないので、つなぎ方と、ならし方、となるでしょう。
岸田 大「沈黙するので羊たちから饒舌だね」
パタトクカシーってなーんだ(ピタゴラスイッチ)。
なんだかよくわからないんですが、可能性を感じる(笑)
まあまあこの設定で、病院をリアルに描くのは無理な気がするので、病院は外してしまった方がすっきりするとは思います。
あとは、どこまで実際に言葉を作り込めるかと、その手間との費用対効果(書き手にとってだけではなく、読み手にとっても)ではないでしょうか。
田場 狩「江戸幕府 VS 米人間」
タイトル勝ち。
内容も勝ち。
もうこれでいいと思います。
近田 夏海「ループ・カップル・スパイラル」
ループものは猛烈にあるので……
と、そうですね、わりと踏まえてるんですね。
うまく抜けられれば、多重ループは意外にいけるの、かも、しれないです。
工夫の方向次第かとは思いますが、かなり細い道になりそうではあります。
でも謎の読後感はあるような。
西村 真「これは銃です」
こう展開すると、まず読み手はついていけないはずで、警察の捜査からかつての大戦の原因、みたいなところへつなげるには、なにか手がかりなり違和感なりを早めに置いておかないと難しいでしょう。
全体に視覚イメージ優先なので、文章としてどうつないでいくかを模索してくことになるのではないでしょうか。
多分、短編一つの核になるようなイメージが、ふたつみっつ放り込まれていて、それをSFっぽい言葉が糊としてつないでいるという形になっているのだと思います。
方梨 もがな「魔術師の無間の夢」
なんかよくわからないので……わからないですね。
設定と、語りを一旦わけて、何がどういうことなのかを整理するところからでしょうか。
本当に物理現象なのか、物語の話であるのか、両者が相互作用するものであるのかを。
そのレベルの決定からのような気はします。
中野 伶理「ふれる」
よいと思います。
ただ、ちょっと、きれいに展開しすぎる感はあるので、ひっかかりを設定した方がよろしいかと思います。
目標達成まで一直線なので、単調になる可能性はわりとあります。
ただ、負けることで強くなる、みたいなものを設定するお話でもないような気がするので、
布が流れるようにさらさらと展開するのでもよいのかもしれません。
根岸十歩「星のささやき」
歌声を中心にすえた設定かと思うのですが、
うーんと、リアリティのレベルの設定次第で、音響兵器と、ロシアの衛星国化した日本、をうまく同じ土台に乗せられるか、でしょうか。
愛国歌をどのくらいそれらしく設定できるか、にかかる気もします。
園田陽「新曲と遊び」
聞くと自殺する曲、ということで、みかけるモチーフであり、どう差異化をはかるかになるのですが、
ギターの細部だけだと厳しそうなので、その没入感を、自殺とどうつなげていけるかでしょうか。
ちょっと人間関係が定型的すぎるので、あからさまに殺伐としているか、日常系にするか、大きくふった方がよいと思います。
西岡京「国葬」
立派なのですが、まだ箱だけで、具材がないです。
特になにが起こるわけでもないので、そうですね。そこをどうするかですね。
「もう少し、見ていたかったのかも知れんな……。 ……この街の、未来を」
へいくにせよ、柘植行人くらいのエピソードは必要なわけで。
オチノ ニト「サチとタエは荒野を目指す」
いや、まあまあバラバラなんですが、
なんでしょう。設定の展開の速度と、お話の速度が合っていない、という感じが強いです。
世界的な現象なのか、親族内での喧嘩なのか。
スケールの整理が必要だと思います。
この感じのお話だとテクノロジーのディテールはあとづけでえいやあ、でよくて、
どんな現象が非日常要素として展開して、何が起こるのか、ではないでしょうか。
その効果を一本に絞って、必要な理屈の方はあとから、というのがひとつの手であるかと思います。
岡嶋心「僕らの休眠預時間活用法」
ジュブナイルとしてよいのではないでしょうか。
数式でいいの?
妹の扱いはそれでよいのか、
は気になるところです。
あとは、ディオがポルナレフを運ぶ問題をどう解決するか、でしょうか。
本所あさひ「仮想空間のまみむめも」
全体におっかなびっくりで、そっと探っている印象です。
少女がホームレスの男性を雇うところは、もっと説得力が必要で、
アバター周りは、もっと派手さが欲しいところです。
結果、ふわっとしています。遠慮してもしかたありません。
ささき えり「魔法のタペストリー殺人事件」
よいファンタジー。
理屈が詰められているのか、いまいちわからないところあり。
長さ的にもちょうどよいのではないでしょうか。
あとはミステリ方面とのかぶり具合ですが、そちらは僕では判定できません
織名あまね「事故調査レポート:甲斐国始末記」
面白い、というか、気になります。
ただ、なにかパーツが不足していて、ええと、調査員、みたいな藤子不二雄要素を外して代わりになにかしっくりくるものをはめられれば、うまく転がる予感はします。
日本語の面白さをうまく活かせるようにできれば、楽しいのではないでしょうか。
かわのさきこ「第三水底劇場、さいごの一日」
『第四間氷期』と『カブキの日』を合わせたような話……ではないですね。
これは、実作を見てみないとわからない種類のもので、ある種の静謐さみたいなものを出すことになるのか、どうなのか、
要求される技術水準はかなり高いことになりそうです。
宿禰「終の住処」
津波で失われた街を対象とするということで、手つきに慎重さが求められますが、拡張現実でということでバランスはとれるような気もします。
SFとあえて名乗るよりは、一般文芸という枠で、文章や構成を競い合うことになるお話ではないかなと思いました。
山森 衛「生命の霧を編む」
オチが、まずこのオチでよいか、で、
このオチでよいとした場合に、どう段どるか、ですか。
梗概の流れのまま書くと、最後で(いわゆる古風な表現としての)ズッコケる感じがあって、語り方かな、という気もするのですが、エネルギーを布に込めることができる、というモチーフを強調していった方がうまく展開するのでは、と思いました。
SF的な「タネアカシ」が効果的かどうかということですね。
去場 司「星を飲む、手のひらの中の宇宙で」
面白くて期待もかかるのですが、ちょとこれは、着地させられないかもしれなくて、
あれですね、茶道の最終兵器っぷりが飛び抜けているので、ふつうこの規模のものに対抗できるのは、夢落ちか幻か病棟くらいしかないんですが、うーんと、なんとかするなら、宇宙の方を変えざるをえなくなるのではないでしょうか。
宇宙像の方は妙にぺらぺらしているので、そのあたりに何か仕込めそうではあるのですが、僕だととりあえず思いつかないです。
継名 うつみ「「つい殺ってしまう」体験の作り方」
やや、ゲームのノベライズ風のものになりそうな気配があって、
それ自体はよいのですが、なんですか、そこまできれいに展開して落とさなくとも、という気はします。
情報収集ポッドに同化する。
情報収集ポッドに同化する。
考えているので繰り返してみましたが、
これが、オチで、たどり着くのが血の因縁経由だと、小説としては弱くなるのではないでしょうか。
こぢんまりと。
馬屋 豊「複製の君」
整えにくいですね。
ええと、段取りが順番に進んでいくので、その入れ替えとか省略をうまくやりつつ、そうですね。
ううん、若王の試練に分量をとりつつ、老王の困惑をフラッシュバック的に入れていくとかが一案、ですか。
なにかまとめにくさを感じます。
和崎 藤丸「二度とはなれないダイアモンド」
特にSF設定は要らないような気もして、下手に入れると、人類が衰退したとき、王制に戻るの問題とか、
謎病気の説明とかが必要になって、バランスが崩れるのではないでしょうか。
なんか外に出ると金属になる、というイメージとその解消、ということではあるので、
結構としては、まあまあプロップのいう魔法昔話型になりそうではあります。
邸 和歌「ぺりぺりぺりぺり」
よいのではないでしょうか。
きれいに落とさなくてもよい気がしますが。
むきはじめてから、世界が狭くなってしまう感じと、
肉体がどうなったとかの細部はそろそろ(少なくともジャンルの読み手に対しては)大幅に端折ってもいいのでは、とは思います。
矢野七味「忠臣蔵エイリアン」
なんだっけ、そう、こういうtweet
を見かけたりもしていますが、
まあ、止めるなにものもない、みたいな。
牧野楠葉「新代田から」
文章的な瞬発力や持続力はもう、本講座でどうこうというラインを超えているので、
ええと、構成とかですか?
ええと、でも、できてるんで、できてますよ。
あとはどのくらいの強度のものをどのくらいのサイズでつくるかという戦略と目分量の話で、
それは、物書きとはなんぞや、みたいな話であって、
僕からはないです。
吉羽善「ストラディヴァリウスの墓守」
よく持ち出されるモチーフなので、注意が必要でしょう。
ああ、でも結構調べてはいるんですね。
博物館モチーフで、イメージ連鎖型なので、どうしても、白昼夢の強度が押し負けることになるかと思います。
そのあたり、お話の動きと連動させる形で何かをつくれるかどうか、というところではないでしょうか。