ゲンロンSF創作講座第6期_最終候補作への感想
【総評】
全体に、考えながら書いてしまって、ずるずると続く感じがあります。
設定をあとから思いついてもよいのですが、最初まで戻って入れ直す必要はあるのではないでしょうか。
シーン転換の弱さや、地の分、セリフで同じ内容を繰り返すことが目立ったように思います。
○柿村イサナ 「わたしは孤独な星のように」
一本道のお話として、よくできていると思います。
人が「流れる」という設定と、(かなり天才型の)物理学者である叔母は、いまひとつ相性がよくないように感じました(叔母はまっさきに、流れる、という現象を研究しそうであるので)。
もう一人登場人物がいれば話が動いたかもしれず、しかし長さ的にはこれでよいかもしれずというところでしょうか。
○櫻井夏巳 「ハローとあなた、さよならと私」
全体に『ドグラ・マグラ』なので、
書き散らした感が否めません。そういう意味でスリリングではあり、なにかの実録風に面白いのですが、
もう少し丁寧に書いてもバチは当たるまい、という感想です。
やや、長さに引っ張られている感があり、山場が何度も現れるので、サドを読んでいるときのように疲れる、という印象を持ちました。
勢いを活かすべき話ではあるかと思うのですが、それでもやはり、お話のつくりを整理する必要があるのではないでしょうか。
○猿場つかさ 「海にたゆたう一文字に」
魅力的な設定なのですが、設定と長さに引きずられたという印象が強いです。
実は造語があまり効いておらず、うるささの方が目につくのではないでしょうか。海筆の描写もシーンをもたせる力があまり強くなく、繰り返し出てくるとどうしてもダレるようです。
一旦時系列を整理して、設定説明と出来事の出し入れを整えた方がよいでしょう。
最大の問題は、描写に緩急があまりないことで、もっとも盛り上がるべきところが平坦に流れてしまっています。
各エピソードのつなぎに、盛り上がりや肩透かしのリズムが必要なのではないでしょうか。
○中野伶理 「ロストミュージアムの天使」
大ネタが弱いので、長さに負けた感じがあります。
「悔しかった」、「過去は怖かった」等の登場人物の直接的な内面の吐露に定型的なものが多く、読み手が抱くべき印象を先に指定しているようなところがあります。あるいはト書き調といえるかも知れません。
テーマが現在進行形で深刻な話題でもあるので、扱いには慎重さと、それを書く強い動機が求められるでしょう。
○邸和歌 「トコエルの成長計画」
個人的にニューラルネットワーク生物ならぬイジング生物を考えていたところだったので、面白く読みましたが、
社会と登場人物、異なるスケールの設定の接続がガタガタなので、読み手を非常に限定すると思います。コメディにしたいのか社会派にしたいのかなんだかわからない、という不安定さがあります。
○和倉稜 「エメの名香」
このくらい書けてしまうとわたくしからはないのですが、
・資料の扱いをもう一度チェックした方がよいかもしれません。
・実在の人物、組織を扱うので、問題は生じないかを再確認した方がよろしいでしょう。
・オチの解説は要らないような気がします。
一番におします。