古典制御2(動的システムの解析と安定性)
動的システムの解析と安定性
*3章 ダイナミカルシステムの過渡応答と安定性 : 過渡応答によるシステム特性の解析
このページでは安定性から。
システムの安定性
定義 : システムの安定性
有界な任意の入力$ u(t)\ \ \ (|u(t)| < \infty)に対して、出力が有界となるシステムを安定と言う。
(そうでないシステムを不安定と呼ぶ。)
性質 : 安定性の条件
・安定性の必要十分条件 : すべての極の実部が負
---> $ G(s)が実極$ \sigma_i\ \ (i=1,2,...,M), 及び複素共役極$ \alpha_i \pm j \omega_i\ \ \ (i=1,2,...,N)を持つとする。
ステップ応答が$ y(t) = A_0 + \sum_{i=1}^M A_i e^{\sigma_i t} + \sum_{i=1}^N \frac{B_i}{\omega_i}e^{\alpha_i t}\sin \omega_it となる事から,
$ \sigma_i,\ \alpha_i < 0なら $ e^{\sigma_i t},\ e^{\alpha_i t}は収束する。
・安定性の必要条件 : 伝達関数$ G(s)の分母多項式のすべての係数が正
---> 安定性の必要十分条件 $ \Longrightarrow $ G(s)の分母多項式の係数が正
---> まぁまぁ便利。(ぱっと見て分かる。)
*4章 フィードバック制御系の特性
感度特性 : パラメータの変化に対する応答の変化の特性
定義 : 感度関数
感度関数は$ S(s):=\frac{1}{1+P(s)K(s)}と定義され、パラメータ変化や外乱に対する感度を表す。
・パラメータ変化が与える影響
以下のFF系とFB系を考える。(同じ記号のFF系)
https://gyazo.com/29006175f376f5c9634e5d19f7d54e0f
まずは、外乱無し・制御対象が1次系・制御器が定数ゲインの場合を考える。
$ d(t)=0,\ P(s) = \frac{A}{\tau s + 1},\ K(s)=Kとできるので、
1. FF系の時,
$ y(s) = P(s)K(s)r(s) = \frac{AK}{\tau s + 1}r(s)より、$ K = \frac{1}{A}とすれば、
$ y(s) = \frac{r(s)}{\tau s + 1}となるので、十分に時間が経過すると$ y(t) \simeq r(t)。
(ステップ目標$ r(t) = aを入力する場合は$ r(s) = \frac{a}{s}より、最終値の定理から求まる。)
---> ここで制御対象の$ Aが$ \overset{\sim}{A} = 1.5Aになると、$ \overset{\sim}{y}(t) = 1.5 r(t)となる。
---> FF系は制御系のパラメータの影響を強く受ける。
2. FB系の時
$ y(s) = P(s)K(s) r(s) = \frac{AK}{\tau s + AK + 1}r(s)より、$ K \rightarrow \inftyと大きくしてやると
$ y(s) \rightarrow \frac{AK}{AK}r(s) = r(s)となり、パラメータに非依存になる。
---> ゲインを大きくするとパラメータ変動に対する感度が低くなる。
・感度関数の意味 : ↑の2.を一般化。
FB系の$ r(s)から$ y(s)への閉ループ伝達関数は$ T(s) = \frac{P(s)K(s)}{1 + P(s)K(s)}と求まるので、
制御対象の伝達関数が$ P(s) \rightarrow \overset{\sim}{P}(s)と変化したとすると、伝達関数も$ T(s ) \rightarrow \overset{\sim}{T}(s)と変化する。
それぞれの相対的な変動率を$ \Delta P(s) = \frac{P(s) - \overset{\sim}{P}(s)}{\overset{\sim}{P}(s)},\ \ \ \Delta T(s) = \frac{T(s) - \overset{\sim}{T}(s) }{\overset{\sim}{T}(s)}と定義すると,
$ \Delta T(s) = \frac{1}{1+P(s)K(s)}\Delta P(s)となり、
$ P(s)の変動が$ S(s) = \frac{1}{1+P(s)K(s)}倍になってFB系の閉ループ伝達関数に影響してると解釈できる。
---> 感度関数は$ P(s)の相対変動が何倍になって閉ループ伝達関数の相対変動に影響するかを示している。
・外乱の影響 : パラメータの時と同じ。
$ r(t)=0の下で外乱$ d(t)が制御量$ y(t)に及ぼす影響を考えると、
1. FF系 : $ y(s) = P(s)d(s)
2. FB系 : $ y(s) = \frac{P(s)d(s)}{1 + P(s)K(s)} = S(s)d(s)
となる。
---> 外乱の影響もパラメータの時と同様にFB系を使えば感度関数$ S(s)で低減できる。
定常特性 : 定常時においては目標値との偏差を$ 0にしたい。
用語の定義
・追従偏差 : 目標値から現在の制御対象の値を引いた物。 ($ e(t) = r(t) - y(t)の事。)
・一巡伝達関数 : FB系の閉ループを一巡した伝達関数。開ループ伝達関数。($ L(s) := P(s)K(s)の事。)
---> 追従偏差は$ e(s) = r(s) - \frac{L(s)}{1+L(s)}r(s) = \frac{1}{1+L(s)}r(s)となる。
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・定常偏差 : $ tの極限での追従偏差の事。
---> 定常偏差$ e_s := \lim_{t \rightarrow \infty}e(t) = \lim_{s\rightarrow 0}\ s \frac{1}{L(s)+1}r(s)
※ ラプラス変換の最終値の定理 : $ f(\infty) = \lim_{t\rightarrow \infty}f(t) = \lim_{s\rightarrow 0}sf(s)より。
1. ステップ入力の場合の定常偏差 : $ e_s = \lim_{s\rightarrow 0}\ s\frac{1}{1+L(s)}\frac{1}{s} = \frac{1}{1+\lim_{s\rightarrow 0}L(s)}
---> 定常位置偏差と呼ぶ。
2. ランプ入力($ r(t)=t)の場合 : $ e_s = \lim_{s\rightarrow 0}\ s\frac{1}{1+L(s)}\frac{1}{s^2} = \lim_{s\rightarrow 0}\frac{1}{sL(s)}
---> 定常速度偏差と呼ぶ。
3. 一定加速度入力($ r(t) = \frac{t^2}{2})の場合 : $ e_s = \lim_{s\rightarrow 0}\frac{1}{s^2 L(s)}
---> 定常加速度偏差と呼ぶ。
※$ K_p := \lim_{s\rightarrow 0}L(s)、$ K_v = \lim_{s\rightarrow 0}sL(s)、$ K_a = \lim_{s\rightarrow 0}s^2 L(s)を位置/速度/加速度偏差定数と呼ぶ。
(例) : 定常偏差がある場合
FB系において、入力は一定値$ 1、$ P(s) = \frac{1}{s+1},\ \ \ \ K(s) = Kとした場合を考える。
この時全体での伝達関数は$ \frac{K}{s+1 + K} \frac{1}{s} = \frac{K}{s(s+(K+1))} = \frac{K}{K+1} \frac{K+1}{s(s+K+1)}より,
ステップ応答は$ y(t) = \frac{K}{1+K}(1 - e^{-(K+1)t})となる。
これは$ \lim_{t \rightarrow \infty}y(t) = \frac{K}{1+K}より、定常偏差が存在する.
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・$ l型の制御系
一般の一巡伝達関数$ L(s) = \frac{b_m s^m + b_{m-1}s^{m-1} + ... + b_0}{s^l(s^n + a_{n-1}s^{n-1} + ... + a_0)}について、
1. $ l=1の時、
$ L(s)は積分器($ 1/s)を1個含み, 定常位置偏差は$ 0となる.
2. $ l=2,3の時、
$ L(s)は積分器をそれぞれ2,3個含み, 定常速度偏差, 定常加速度偏差も$ 0となる.
この様に、$ L(s)が積分器を$ l個含む時、$ l型の制御系と呼ぶ.
・外乱に対する定常偏差
$ r(t)=0なFB系を考える。
---> $ y(s) = \frac{P(s)}{1+P(s)K(s)}d(s)となる。
$ \lim_{t\rightarrow \infty}y(t) = \lim_{s \rightarrow 0}sy(s) = \lim_{s\rightarrow 0}\frac{P(s)d(s)}{s(1+P(s)K(s))}より、
定常状態での外乱の影響が$ 0になるには, $ P(0)=0または$ K(0)=\inftyが条件となる。
・まとめ : 定常状態での偏差が$ 0になるには, $ K(0)= \inftyとなる事が条件になる.
https://gyazo.com/1ca0abc7e554fafcbf3008892fc70a78
根軌跡 : 昔はこれで制御器設計してたらしい。
定義 : 根軌跡
開ループ伝達関数$ G(s)と定数ゲイン$ Kを用いた下図の直結FB制御系について、
$ K:0\rightarrow \inftyと動かした時の閉ループ伝達関数$ \frac{KG(s)}{1+KG(s)}の極の軌道を根軌跡と言う。
---> これを用いて虚軸と根軌跡の交わる点を求める事で安定する$ Kの範囲が分かる。
※ $ 1+KG(s)=0の解の事を特性根と言い、$ Kの増大する方向に矢印をつける場合が多い。
・書き方
低次では単純に解を求めて軌跡を書く事で根軌跡が書けるが、高次では難しいので以下の性質を用いる。
1. 根軌跡は$ G(s)の極$ p_i\ \ (i=1,2,..,n)から出発し、
その中の$ m本は$ G(s)の零点$ z_i\ \ (i=1,2,..,m)が終点となる。
残りの$ n-m本の軌跡は無限遠点に発散していく。
2. 無限遠点に至る根軌跡の漸近線の角度は$ \frac{180^\circ + 360^\circ l}{n-m}となる. $ (\forall l \in \mathbb{Z})
$ n-m \geq 2の時は漸近線と実軸は$ \frac{(\sum_{i=~1}^n p_i) - (\sum_{j=1}^m z_j)}{n-m}の一点で交わる。
3. 実軸上の点でその右側に$ G(s)の実極と実零点が(重複を含めて)合計奇数個あれば、
その点は根軌跡上の点となる。
4. 根軌跡が実軸から分岐(or 合流)する点は$ \frac{d}{ds}\frac{1}{G(s)} = 0を満たす. (必要条件)
5. 極$ p_jから根軌跡が出発する角度は$ 180^\circ - \sum_{i \neq j}\angle (p_j - p_i)+\sum_{i=1}^m \angle(p_j-z_i)であり、
零点$ z_jへ根軌跡が終端する角度は$ 180^\circ + \sum_{i=1}^n \angle (z_j - p_i) - \sum_{i \neq j}\angle(z_j - z_i)となる。
https://gyazo.com/976b56dc8c80adbe7736e2ddbeca6984
*5章 : 周波数応答 : 正弦波を入力に加えた時の定常状態の応答によってシステムの特性を解析する。
周波数応答
---> 安定な線形システムに一定周波数の正弦波を加え続けると定常出力は入力と同じ周波数の正弦波になる
定義 : 周波数応答
入力の正弦波の周波数を変化させた時に出力の振幅・位相がどの様に変化するかという特性を周波数特性と呼ぶ。
---> システム$ G(s)に角周波数$ \omegaの正弦波を入れた時の定常出力は$ |G(i\omega)|e^{i(\omega t + \phi)}
---> 振幅の変化は$ |G(i\omega)|、位相差は$ \angle G(i\omega)によって生まれる。(それぞれゲイン、位相差と呼ぶ。)
※ $ G(i\omega)を周波数伝達関数と呼ぶ.
Proof. ======================================================================
簡単のために$ G(s)の極$ p_iは安定で相異なるとする.
このシステムに対して、$ u(t)=e^{i\omega t} = \cos (\omega t) + i \sin(\omega t)を入力する。
$ \mathcal{L}[u(t)]=\frac{1}{s-i\omega} より、出力$ y(t) は
$ y(t)=\mathcal{L}^{-1}\left[G(s)\frac{1}{s-i\omega} \right]=\mathcal{L}^{-1}\left[\frac{K_0}{s-i\omega} + \sum_{i=1}^n \frac{K_i}{s-p_i}\right] (部分分数分解. ローラン展開のノリ)
$ = K_0e^{i\omega t} + \sum_{i=1}^n K_i e^{p_i t}となるが、$ p_iは安定な極なので、$ \lim_{t \rightarrow \infty}e^{p_i t} = 0となる。
また$ K_0 = \lim_{s\rightarrow i\omega}(s-i\omega)\left(G(s)\frac{1}{s-i\omega}\right) = G(i\omega)として求められるので、(留数の計算)
$ \lim_{t \rightarrow \infty}y(t) = |G(i\omega)|e^{i (\omega t + \phi)} として計算できる。 ($ \phi = \angle G(i\omega), 定数)
=============================================================================
ベクトル軌跡 : $ \omegaを$ 0 \rightarrow \inftyと変化させた時の周波数伝達関数$ G(i\omega)の軌跡。
1. 積分系 $ G(s)=1/s
---> $ |G(i\omega)|= |\frac{1}{i\omega}| = \frac{1}{|\omega|}より, ゲインは$ \omega:0 \rightarrow \inftyとなるに従って$ \inftyから$ 0に収束する.
$ \angle G(i\omega) = - \angle i = -90^\circより, ベクトル軌跡は以下の様になる.
https://gyazo.com/907b396df5098be34b9003425cad5599
2. 二重積分系 $ G(s)=1/s^2
---> $ |G(i\omega)| = \frac{1}{|\omega|^2}より, ゲインは$ \omega: 0\rightarrow \inftyになるにしたがって$ \inftyから$ 0に収束する。
$ \angle G(i\omega) = - \angle i^2 = -180^\circより, ベクトル軌跡は以下の様になる。
https://gyazo.com/52619fd6e0db5135dc933ba83657e941
3. 1次系 $ G(s)=\frac{1}{1+Ts}
---> $ |G(i\omega)| = \frac{1}{|1+i\omega T|} = \frac{1}{\sqrt{1+(\omega T)^2}}より、ゲインは$ \omega : 0 \rightarrow \inftyとすると、$ 1から$ 0へと収束する。
$ \angle G(i\omega) = - \angle (1+i \omega T)より, $ G(i \omega) = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\cdot \frac{1 - i\omega T}{1+i\omega T}である事を合わせて, ベクトル軌跡は以下の通り
※ $ \left| \frac{1-i\omega T}{1+i \omega T} \right| = 1より, $ 1/2が中心の円になる。
https://gyazo.com/8ec99c504678b7fa3bd918932f8f2010
4. 2次系 $ G(s)= \frac{\omega_n^2}{s^2 + 2\zeta \omega_n + \omega_n^2},\ \ \ \ \Omega = \frac{\omega}{\omega_n}
---> $ |G(i\omega)| = |\frac{1}{i^2 \Omega^2 +2\zeta \Omega i + 1}| = \frac{1}{\sqrt{(1-\Omega)^2 + 4\zeta^2 \Omega^2}}より、
ゲインは$ \omega:0 \rightarrow \inftyになるに従って$ 1から$ 0に収束。
$ \angle G(i\omega) = - \angle (1-\Omega^2 +2 i \zeta \Omega) より, ベクトル軌跡は以下の通り
https://gyazo.com/d735b9a688ea3fd8e48337cba50f47b8
5. 一般の高次系 $ G(s) = \frac{b_ms^m + b_{m-1}s^{m-1} + ... + b_1 s + b_0}{s^n + a_{n-1}s^{n-1} + ... + a_1 s + a_0},\ \ \ (n > m)
---> ベクトル軌跡の始点は$ a_0 \neq 0の時は$ 0、原点に$ l位の極がある時は、$ |G(0)|が無限に発散し、
$ \angle G(i\omega) = \angle \frac{b_m (i\omega)^m + ... + b_0}{(i\omega)^l ((i\omega)^{n-l}+a_{n-1}(i\omega)^{n-l-1}+...+a_l)} \rightarrow \angle \frac{b_0}{a_l (i\omega)^l}=\angle \frac{b_0}{(i\omega)^l} = l \times 90^\circ + \angle b_0 \ \ \ (\omega\rightarrow 0)
※ 安定な極のみを持つ分母多項式の係数は正なので$ a_l \in \mathbb{R}は無視できる. $ b_0は値ではなく符号が効いてくる.
また, $ \omega \rightarrow \inftyとなる時には, $ |G(i\omega)|\rightarrow 0であり,
$ \angle G(i\omega) \rightarrow \angle \frac{b_m}{(i\omega)^{n-m}}= (n-m)\times (-90^\circ) + \angle b_m\ \ \ (\omega \rightarrow \infty)の方向から原点に向かう.
*6章: フィードバック制御系の安定性
---> 以降では、制御対象とコントローラを$ P(s)=\frac{N_p(s)}{D_p(s)},\ \ K(s)=\frac{N_k(s)}{D_k(s)}として規約分数で表し、
$ P(\infty) = 0,\ \ |K(\infty)| < \inftyの条件下で下図のFB系を考える。
※ 前者を厳密にプロパー、後者をプロパーという。
https://gyazo.com/29006175f376f5c9634e5d19f7d54e0f
内部安定性 : FB系の安定性
---> システムに入力を加えずに放置すると、いずれ全てのシステムの状態が$ 0となる。
定義 : 内部安定性
外部から加わる信号$ \{r(s), d(s)\}から各要素の出力$ \{u(s), y(s)\}への伝達関数が全て安定な事。
内部安定性が満たされる時、FB系は安定であると言う。
性質
・内部安定性の必要十分条件
特性多項式$ \phi(s) = D_PD_K + N_PN_K = 0の全ての根の実部が負
---> 実際に上記の4つの伝達関数を全て求めると以下の様になる。
$ G_{ur}(s) = \frac{K(s)}{1+P(s)K(s)} = \frac{D_PN_K}{\phi}
$ G_{ud}(s) = \frac{ - P(s)K(s)}{1+P(s)K(s)} = \frac{-N_PN_K}{\phi}
$ G_{yr}(s) = \frac{P(s)K(s)}{1+P(s)K(s)} = \frac{N_PN_K}{\phi}
$ G_{yd}(s) = \frac{P(s)}{1+P(s)K(s)} = \frac{N_P D_K}{\phi}
この$ \phi(s) = D_PD_K + N_PN_Kを特性多項式と呼び、
$ \phi(s)の全ての根の実部が負なら、以上全ての伝達関数が全て安定になる。( = 内部安定)
※ $ G_{ba}は信号$ aから信号$ bまでの伝達関数を表す。
・不安定な極零相殺
$ P(s)の不安定極を$ K(s)の不安定零点で相殺する事。
性質 (不安定な極零相殺)
1. $ P(s), K(s)の間に不安定な極零相殺が存在する時、FB制御系は内部安定ではない。
2. $ P(s), K(s)の間に不安定な極零相殺が存在しない時、以下3つは等価。 <--- 重要
1. FB制御系が内部安定
2. 閉ループ伝達関数$ G_{yr}(s)が安定
3. $ 1+P(s)K(s)の零点が全て安定. (全て実部が負)
(例 6.1) : 不安定な極零相殺 ==============================================================
$ P(s) = \frac{1}{s-1},\ \ \ \ K(s)=\frac{s-1}{s}なる場合を考える。外乱は$ d(s)=0とする。
---> この時のシステムの安定性を考える。
$ y(s) = \frac{P(s)K(s)}{1+P(s)K(s)}r(s) = \frac{1}{s+1}r(s)として入出力関係が求まる。
安定なシステムに見えるけど、制御対象の初期値$ y(0) = y_0を考慮に入れて考えると、
$ y(s)/u(s) = 1/(s-1)より、$ \dot{y}(t) - y(t) = u(t)から、
$ y(s) = \frac{1}{s-1}u(s) + \frac{1}{s-1}y_0となる。
ゆえに$ y(s) = \frac{1}{s+1}r(s) + \frac{P(s)}{1+P(s)K(s)}\cdot \frac{y_0}{s-1} = \frac{1}{s+1}r(s) + \frac{s}{(s+1)(s-1)}y_0となり、
不安定極が存在するので、厳密に$ y_0=0でなければ無限大に発散する。
この様に不安定な極を零点で相殺する事を不安定な極零相殺と呼ぶ。
※ 内部安定で無い事は$ \phi(s) = (s+1)(s-1) = 0の全ての根の実部が負ではない事からも説明できる。
=======================================================================================
ナイキストの安定判別法
---> 開ループ系、閉ループ系の不安定極の数$ \Pi,\ Zについて、
$ N := Z - \Piを開ループ系の周波数応答から求める方法。安定性の判別に使える。
※ ただし、開ループ系$ P(s)K(s)が虚軸上に極を持たないと仮定する。
※ 大抵は$ \Piが既知のシステムの安定性判別に用いる。
定義 : ナイキスト軌跡
下図の閉曲線$ Cに沿って原点から時計回りに$ s \in \mathbb{C}を動かした時の
$ w = P(s)K(s)の軌跡$ \Gamma_1をナイキスト軌跡と言う。
https://gyazo.com/a2d84aadbf133c7342059e4ee285a216https://gyazo.com/e3ae03b524fd5ee53f0a851cb673a7cb
※ ベクトル軌跡との関係
$ sが閉曲線$ C上を$ O\rightarrow aと動く間はベクトル軌跡$ P(i\omega)K(i\omega),\ \ \ (\omega =0 \sim \infty)と一致し、
半径$ \inftyの円周上では$ P(\infty)K(\infty) = 0の時は原点に留まる。
$ c\rightarrow Oと動く時は最初のベクトル軌跡を実軸対称にした軌跡$ P(i\omega)K(i\omega)\ \ \ (\omega = -\infty \sim 0)と一致。
・ナイキストの安定判別法
ナイキスト軌跡$ \Gamma_1が点($ -1)を時計回りに回る回転数が$ N = Z - \Piとなる。
---> 「ナイキスト軌跡が$ (-1)の周りを半時計回りに回転した回数が
開ループ系伝達関数の極(基本的には不安定極)の数と一致するなら、制御系は安定」と言える。
※ なぜこれで求まるのか==================================================================
開ループ系$ L(s) = P(s)K(s)の極を$ p_iとし, 閉ループ系の極を$ r_iとすると、
$ 1+P(s)K(s) = \frac{(s-r_1)...(s-r_n)}{(s - p_1)...(s - p_m)}と表す事ができる。
この時$ \omega = 1+P(s)K(s)の偏角は$ \angle \omega = \sum_{i}\angle (s-r_i) - \sum_{i}\angle (s-p_i)として求まるので、
$ \sum_i \angle (s-r_i) = - 360^\circ \times Z
(不安定な$ r_iのみが閉曲線$ Cの内部に含まれる. 含まれない$ r_iの$ \angle (s-r_i)=0.)
$ \sum_i \angle (s-p_i) = -360^\circ \times \Pi (上と同じ)
と求まる事から、$ \angle \omega = -360^\circ \times (Z - \Pi)と求まる。
ゆえに、$ \omega' = \omega -1として$ \omega'の軌跡$ \Gamma_1が点$ (-1)を時計回りに回転した回数$ Nによって、
$ N= Z - \Piと求まる。
===========================================================================================
・虚軸上に極がある場合のナイキスト軌跡 : 仮定が成立しない。
閉曲線$ Cの原点付近に半径$ \epsilonの微小な半円を追加した閉曲線$ C'についての軌跡で対応する。
---> $ \epsilon = 0で不連続になる所は$ \lim_{\epsilon \rightarrow 0} L(\epsilon e^{i\theta})\ \ \ (-90^\circ \leq \theta \leq 90^\circ)の軌跡を考える事でナイキスト軌跡が書ける。
ただし、この場合には原点の極は数えない。(原点の極は$ C'の内部に含まれないので)
※ 原点以外にも虚軸上に極が存在する場合も同様に閉曲線$ Cに半円を追加すれば良い。
https://gyazo.com/7fe08239254c33a0db4d920c46ddf192
↑閉曲線$ C'
・開ループ伝達関数が安定な場合のナイキストの安定判別法 : もっと簡単に安定性を判別する事ができる
やりかた
1. 開ループ伝達関数の極の中に実部が正となる物が存在しない事を確認する
2. 開ループ伝達関数のベクトル軌跡$ L(i\omega) = P(i\omega) K(i\omega)を$ \omega = 0 \sim \inftyで描く。
3. $ \omegaを$ 0 \rightarrow \inftyと変化させた時にベクトル軌跡$ L(i\omega)が常に$ (-1)の右を通る場合に系は安定。
※ 点$ (-1)上を通る場合は安定限界、常に左側を通る様に動く場合は系は不安定となる。
https://gyazo.com/f474dcb010af0244cd82202390c71b68
↑実線部分が$ \omega : 0 \rightarrow \inftyに相当
ゲイン余裕・位相余裕
定義 : 位相交差周波数 / ゲイン交差周波数
開ループ伝達関数$ L(i\omega) = P(i \omega) K(i\omega)について、
$ \angle L(i\omega_{pc}) = -180^\circなる周波数$ \omega_{pc}を位相交差周波数と言い、
$ | L(i\omega_{pc})| = 1となる時の$ \omega_{gc}をゲイン交差角周波数と言う。
※ 前者は実軸とベクトル軌跡が交じる点、後者は半径$ 1の円とベクトル軌跡が交わる点の周波数に対応する。
https://gyazo.com/19ccd385d2dfeedee86a53dac7ee32ca
↑ゲイン余裕は倍率な事に注意。(交点の座標が$ \frac{-1}{k_c})
定義 : ゲイン余裕 / 位相余裕
---> ナイキスト軌跡が$ (-1)から右側にある程度離れている時には、FB制御系は安定余裕があると言う。
安定余裕を定量的に示す値がゲイン余裕 / 位相余裕。
・ゲイン余裕
$ k=1の時に下のFB系が安定となる場合について、$ k>1で大きくした時の安定が保たれる限界$ k_cの事
※ $ kP(s)K(s)のナイキスト軌跡は$ P(s)K(s)のそれを$ k倍した物。
※ bode線図上では、位相が$ -180^\circの時($ \omega = \omega_{pc})のゲインを$ 0dBから引いた値となる。
・位相余裕
$ \phi=0の時に下のFB系が安定となる場合について、$ \phi>0で大きくした時の安定が保たれる限界$ \phi_cの事。
※ $ e^{-i\phi}P(s)K(s)のナイキスト軌跡は$ P(s)K(s)のそれを$ -\phi回転させた物。
※ bode線図上では、ゲインが$ 0dBの時($ \omega=\omega_{gc})の位相から$ -180^\circを引いた値となる。
https://gyazo.com/b36d3e39ed50bff0fd8831f9c04ef9dc
↑ゲイン余裕の方
https://gyazo.com/ac888ae39984bb8d870df4a8f874678c
↑位相余裕の方
https://gyazo.com/a4de229b4032b32b16f963a7a88ce962
https://gyazo.com/8bb77de4a6b49d144a549efd1aa5be76
意味
・位相交差角周波数 $ \omega_{pc}
1. $ |L(\omega_{pc})| < 1の時
---> 入力信号に対して位相が反転した信号が負のフィードバックによって再び入力に加えられても
振幅が減衰するので、系は安定になる。
2. $ |L(\omega_{pc})|>1の時
---> 負のフィードバックによって入力信号が増幅されて再び入力に加わる事で
振幅が増大して発散していくので、系は不安定になる。
3. $ |L(\omega_{pc})|=1の時
---> 入力信号に対して振幅が同じで位相が反転した信号が再び負のフィードバックによって
再び反転されて同位相で入力に加えられるので、振動が持続して安定限界になる。
・ゲイン交差周波数$ \omega_{gc}
この位相が$ -180^\circより進んでいれば、系は安定。(ベクトル軌跡が点$ (-1)の右側を通る)
$ -180^\circよりも前であれば、系は不安定。(ベクトル軌跡は左側を通る)
$ -180^\circであれば、点$ (-1)を通るので安定になる。
・well-posed
全ての伝達関数が全て適切に定義され, かつプロパーになる時の事。
---> FB系がwell-posedになる必要十分条件は、「$ 1+P(\infty)K(\infty) \neq 0」
※ 特に$ Pが厳密にプロパーな時にはFB系は必ずwell-posedになる。