セッション内でのコミュニケーションについて
TRPGの大きな特徴のひとつにコミュニケーションの重要性があげられる。ゲームの進行はGM、あるいは他のプレイヤーとのコミュニケーションによって行なわれるためだ。
もっとも他のゲームやチームとチームで対戦するスポーツ、あるいは個人競技であったとしても選手と、選手をサポートするスタッフ、あるいは選手間のコミュニケーションは極めて重要な意味を持つ。RPGもその例に漏れないという話だ。
コミュニケーションの基本
コミュニケーションをうまくするコツのひとつは他人の話を聞く姿勢を見せることである。あなたが相手の話をきちんと聞いていると、相手に対してアピールすることは、会話相手に聞く態度を取らせるための重要な技術だ。あなたがGMであれば、あなたからプレイヤーに話しかけることは多いだろう。プレイヤー
に指示を出し、それにしたがってもらうことも多い。だが、だからこそ相手の発言に注意し、聞く姿勢を持つことが重要になる。GMはプレイヤーの発言や無意識的に発せられている要求を受け取れるように注意することが望ましい。
もちろん、相手の要求を聞くことと、要求を満たすことはまったく別の問題である。ただし、ごく軽い不満や何かのミスの指摘などの場合、あなたが相手の要求を"聞く"ことで相手が満足してしまうことも多い。また、短くとも会話することで、新しい解決方法が見つかったり、相手やあなたのどちらかが思い違いをしていることに気がついて、納得してしまうこともあるだろう。逆に、相手の話をまったく聞かないという態度を見せると、それが理由になって、より大きな不満を相手に抱かれる危険がある。
まず、話をよく聞いて、相手が何を望み、何を話そうとしているのかを知ろうとすること。そこから、コミュニケーションは始まるのだ。
GMというリソース
GMはそのテーブルにおいて代えられない資源(リソース)である。多くの場合、GMひとりに3~5人のプレイヤーがいることになる。同時に5人から話しかけられたらGMは処理に困るだろう。そのような場合に、大事なことはまず落ち着くことである。その場が紛糾したり、プレイヤーが口々になにか言ったとしても、あなたはひとりしかいない。すべての欲求に同時には対応できない。順番に対処していくしかないのだ。結果、プレイヤーの発言の順番に処理していくことになる。
このときに、ちょっとしたテクニックがある。現在相手をしているプレイヤー以外には「ちょっと待ってくれ、順番に処理をするから」と言うことだ。こうすることであなたは目の前の処理に集中でき、他のプレイヤーは待ちの姿勢に入ることができる。
むろん、これは後から発言したプレイヤーをないがしろにしろと言っているわけではない。慌てず順番に、きちんと処理を終了させてから次へ移るということだ。
場の空気を読む
さて、これまで先に話しかけて、相手の話を聞くということに重点を置いて解説してきた。だが、プレイヤーの中には話したい(聞きたい)ことがあり、GMの回答や感想、裁定を欲しがる人もいる。どちらが優先されるのだろうか?答えは、相手をよく見るということにつきる。なぜなら、あなたの取るべき態度は相手次第で変わるからだ。相手が話しかけたいのなら、相手の話を聞くことになるし、相手が困っていたり、話しかけたいがどうすればよいか分からない場合にはGMの方から話しかける方がよい。
では、あなたが話しかけたい人がいて、あなたが話しかけられている時、あなたはどうするべきなのだろう?その答えもまた状況と相手次第としか言えない。
相手が何を考え、何を望んでいるのかを冷静に観察し、かつ相手に共感する必要がある。
相手が何を目的として発言しているのか、あるいは黙ってしまっているのか、相手の立場に立って考慮し、推測する。こういった行為はコミュニケーションの基本姿勢である。
メタゲーム思考とTRPG
RPGにおいてプレイヤーとキャラクターは完全にイコールではない。たとえば、キャラクターが貧乏にあえいでいて、空腹に悩まされていても、あなたの財布にお金がないわけではない。その逆に、キャラクターが想像を絶する大金持ちでもあなたの財布の中の現金が増えることもない。
だが、まったく関係がないというわけでもない。あなたはキャラクターを介してシナリオの登場人物、あるいはそのキャラクター自身に感情移入をするだろうし、キャラクターが激情を覚えたとき、その感情はあなたの中にもあるはずだ。キャラクターはあなたが嫌悪感を持つ行為を嫌うだろうし、あなたが好ましいと思う人物、事物を同じように好ましいと感じるだろう。『DX3』のセッションは、多重構造を持っている。セッションの参加者は互いのプレイヤーとしてのコミュニケーションを楽しみつつ、『DX3』の舞台となった限りなく現代に近い日本で、オーヴァードとして活躍している。さらに参加者は、自分の担当するPCたち同士にコミュニケーションを取らせ、その活躍を楽しんでいる。
こういった入れ子構造のゲームを"メタゲーム構造"、と呼ぶ。正確を期すなら、あらゆるゲームには"メタゲーム要素"は存在する。これは対戦する両者が人間で、人間としてコミュニケーション、が行なえる以上、当然のことなのである。
RPGにおいてのメタゲームは、うまくセッションを運営するために身につけた方がよいテクニックのひとつといえるだろう。
プレイヤーとPC
前述したように、プレイヤーとそのPCは同一の存在ではない。まれに、"メタゲーム"を卑怯でずる賢い行為であるかのように捉えている人がいるが、それは誤解だ。人間同士が参加してコミュニケーションを行なう以上、メタゲームは発生してしまうものだからだ。
特にコミュニケーションに主眼を置いているTRPGでは"メタゲーム要素"は切っても切り離せない。
大体において、他人と楽しく遊ぼうと考えた場合、相手の趣味趣向や嗜好、意思を無視するなどということはあり得ないだろう。
しかしながらRPGなのだから、キャラクターを演じて遊ぶ、そのキャラクターの視点で物語に参加するという部分も欠かせない要素である。あくまでもキャラクターとして思考し、発言し、行動するから、セッションが盛り上がり楽しくなるのもまた事実なのである。
つまり、バランスが重要なのだ。「たとえば、GMが出す依頼人は必ず裏切るので、裏が完全に取れるまで信用しない」のは問題といえば問題だ。だがもっと問題なのは、このGMはよく依頼人が裏切るシナリオを作るのが好きなので、このGMが登場させる依頼人のNPCの言動は信用してはいけない、などと他の参加者に対して声高に主張することである。これでは、周囲の他のプレイヤーがしらけることは想像に難くないだろう。
先読み発言
同じようなメタゲーム要素としての問題に、シナリオの先読み発言というものもある。つまり、何かの事象があったときにその先の展開を予測され、それを念頭に置いて行動するということである。こういった行為をいやがるGMは多い。自分の遊んでいるシナリオが陳腐で筋立てに工夫がないと非難されているような気分になるのだという。
だが、逆に考えてほしい。実のところ、これはよい傾向なのである。それは先読み発言をしているプレイヤーが、あなたの発しているイメージを正確に掴んでいる。ということを意味するからだ。これは極めてまれな状態である。GMなら喜んでいい、そんな状況なのだ。RPGはGMとプレイヤーが対戦し、お互いを妨害するゲームではない。GMとプレイヤーはお互いに楽しさ"を与え合う存在なのだ。相手の裏をかくことがセッションの成功に利することはない。
また、先読み発言は多くの場合、そのプレイヤーにとってあって欲しい展開を提案しているという側面がある。それはプレイヤーがどのように、セッションをイメージしているのか、どうなると楽しいのか、という欲求を表わしている。つまり、先読み発言は、プレイヤーからのイメージの提案であると捉えることができるのだ。
それでは、先読みをされたGMはどうすればよいのか?「さてね?」とニヤリと笑いながら言えばいいのだ。あなたの内心はあなた以外の人間にはうかがい知ることはできない。あなたが慌てさえしなければ、何も問題はないのだ。