考えは熟成させること
温故知新は温故而知新である。『アイデア大全』などのインキュベーションと繋がる。
「「温故」とは、既存の知識(故)を、ぐつぐつ煮て温める(温)という意味です。あるいは、それを糠床に入れると言ってもいいかもしれません。鍋や糠床に知識をたくさん詰め込んで、温め、発酵を待つ。 見逃されがちなのですが、『論語』の原文には「温故」と「知新」のあいだに「而」という字が入っています。これは、時間の経過を表す文字ですが、巫女の頭髪の象形だという説もあるように、ただの時間ではなく、奥深くで見えないうちに何かが変化する魔術的時間、じっくり煮て温めているうちに肉や野菜が柔らかくなる時間、あるいは発酵を待つ時間です。 すると「知新」が訪れる。「知」という字は孔子の時代にはまだなく、あったのは左側の「矢」だけです。この「矢」が地面に到達したことを示す文字が「至」です。すなわち「知」とは、矢が突然飛んで来る(至)ように、忽然として何かが出現することを意味する語であったと思うのです。」
—『役に立つ古典 NHK出版 学びのきほん』安田登著