01|008>2025/08/16
スキル〔聖域〕の使い手
「あぁ、くそ……」
上着のポケットに入れていたスマートフォンが着信音を奏ではじめると、そんなふうに悪態をつきながらも、直前まで話していた私に断ることもなく、叔父さんは条件反射じみた手の早さで電話に出てしまう。
「――どこの馬鹿だ? 今日はスタンピードでも起きない限り呼び出すなと言っておいたはずだが?」
『――――』
肝心なときも、そうでないときも、叔父さんが電話一本で呼び出されてしまうのは、最早お約束だ。
シュドナイがいなかったら、当時八歳だった私のことを引き取って育てるなんて、絶対に無理だったと断言できてしまうくらい。強度の高い〔治癒〕スキルを持つ叔父さんは、あっちこっちで引っ張りだこ。
微かに漏れ聞こえてくる電話相手の声は、ご機嫌斜めな叔父さんに対して平謝りといったふうだけど。結局のところ、叔父さんから断られることはないと踏んでいるから、こうして休みの日にまで呼び出しの連絡を寄越しているに違いなかった。
「……わかった。五分で戻る」
ちなみに、私はこの十年、叔父さんがこの手の呼び出しを蹴るところを見たことがない。
「予定変更だ。正面につけてくれ」
今回も案の定、そういうことになって。電話を切った叔父さんは、まずシュドナイに行き先変更を告げた。
それから最後に、私を見て申し訳なさそうな顔をする
「悪いな」
「べつに? いつものことだし」