長いコメント(第8回)
Q1:これは、写実的な絵と様式化された絵の違いの説明として十分かどうか。
A1: 十分ではないと思います。なぜかというと、人物だけか人物の顔か人物の目だけが様式化されて、絵の他の部分が写実的な例がたくさんあります。
そこで、一部だけが様式化されても「様式化された絵」にしますか、様式化された部分の割合(割合の計算の基準も不的確で、例えば絵の面積で計算しますか、あるいは主題は背景やその他の部分より重みが上がりますか)がそうでない部分を上回る場合にそれを「様式化された絵」にしますか、それども別の基準に準じますか。
具体的には、以下の例をご参照ください。
Q2:具体的には、この説明がうまく当てはまらない反例があるかどうか。
A2:A1で挙げられた例も説明できますが、ここでは別の角度から反例を挙げましょう。
写実的か様式化されたか以前に、もう一つの課題があると思います。それが写「実」的かどうかに関する認識のずれです。
言葉からも分かるように、日本語の写「実」的と英語のREAListicに、現実という言葉があり、即ち「写実的」作品とは、現実の状況に沿って創作しなければなりません。
そして、一枚の画像の要素について写実的かどうかについて、その要素におけるプロと一般人の認識に限らず、一般人同士の認識が大きくずれる可能性があります。
一つの代表的だと考えられてもよい例は、「筋肉」です。
格闘系の作品をさておき、『Free!』『SLAM DUNK』『孤高の人』
などスポーツ作品に描かれた男性の体格は写実的かどうか、その答えは一般人でも大きく分けるでしょう。
スポーツリハビリとフィットネスにおいてYoutubeで大きな影響力を持つJeff Cavaliereが、インタビューでこのように語りました「I looked at guys like Arnold and Frank Zane, and I thought that's just what they look like. I didn't realize that they were enhanced in some way」。
ここで言う「enhanced」とは、「natural」とは対義的で、PEDs(performance-enhancing drugs)を使って筋肉や運動表現を向上させる人のことを指します。
つまり、Arnold SchwarzeneggerやSylvester StalloneやDwayne Johnsonないしキャプテン・アメリカの出演者であるChris Evansを筆頭とするハリウッドの俳優たちは、実は薬物を使ってこそそんな体格を手に入れたわけです。
このような俳優たちは、ポップカルチャーを通じて一気に我々の「筋肉」に対する認識を覆し、そしてフィットネスやボディビルディングに知識を所持していない一般人は当然ながら彼らが薬物を使用していることを知りません。
つまり、プロの立場からすれば写実的ではない(ポップカルチャーの「マッチョ」の描写に影響され、様式になった可能性が高い)描写を、一般人がリアルだと思い込んだ可能性があります。
「筋肉」と類似するのは、「格闘の動き」、「料理」、「軍事」などが挙げられます。