ベラスケスとケネス・クラークの経験の記述
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/31/Las_Meninas%2C_by_Diego_Vel%C3%A1zquez%2C_from_Prado_in_Google_Earth.jpg/890px-Las_Meninas%2C_by_Diego_Vel%C3%A1zquez%2C_from_Prado_in_Google_Earth.jpg
ベラスケス《ラス・メニーナス》
Art and Illusionからの引用(訳・強調は松永による)
「美術作品は鏡ではない。しかし、とらえどころのない変形の魔法を持つという点では、鏡と同じである。それは言葉にするのがきわめて難しいものだ。近ごろ、内省の名人であるケネス・クラーク〔イギリスの著名な美術史家〕は、イリュージョンに「忍び寄る」試みがいかに挫折したかを非常に鮮やかに記述している。彼がベラスケスの名画を見ていたときのこと。絵から一歩下がると、キャンバス上の筆づかいと色の小片が、美化された現実の視覚に一変した。彼は、このときに何が起きているのかを観察したいと思った。しかし、絵に近づいたり絵から離れたりいろいろ試してみたものの、両方の視覚を同時に保持することはできなかった。結局、その変形がいかになされるのかという疑問に対する答えは、どうやっても得られそうになかった。」
下記の清塚論文からケネス・クラークの文章の引用(訳は清塚、強調は松永による)
「『侍女たち』を見る人は,だれもがじきに,この絵がどんなふうに描かれたのかを知りたくなる。……私はよく,幻影が完成された姿を呈するかぎり最も近い位置から出発して,しだいに眼を画面に近づけてゆき,ついに突然,それまでは手やリボンやビロードの布であったものが,美しい筆致の集積へと溶け去ってゆくのを体験した。こうした変形が起こる瞬間を捉えることができたら何かを学ぶことができるのではないか,と私は考えたのだが,それは目覚めと眠りのはざまの瞬間と同じくらいに捉えどころのないものであることがわかった。」