ゴンブリッチによる絵の真偽の議論
以下、松永「ビデオゲームにおける意味作用」(pp. 78–79)から引用。
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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/de/George_Inness_-_The_Lackawanna_Valley_-_Google_Art_Project.jpg/800px-George_Inness_-_The_Lackawanna_Valley_-_Google_Art_Project.jpg
Fig. 4.4 George Inness, The Lackawanna Valley
ゴンブリッチ(Gombrich 1961)もまた、広告向けに描かれた絵画作品がうそをついているようにみえる事例(Fig. 4.4)を取り上げて論じている。ゴンブリッチによれば、この絵の画家は、発注者である鉄道会社の社長に要求されて、実際には存在しない線路をつけ足した(ibid: 66-67)。つまり、画家は事実を誇張ないし歪曲して描いたわけである。しかし、ゴンブリッチは以下のように主張する。
厳密にいえば、そのうそは、その絵のなかにあったのではない。それはその広告のなかにあったのである――もしその広告が、キャプションやほのめかしによって、その絵が〔…〕正確な情報を与えていると主張していたのであれば。異なる文脈では、同じ絵が真なる言明(statement)を図解(illustrate)していたかもしれない。たとえば、当の鉄道会社の社長が、株主の会合において、その絵をつかって懸案の改良工事を説明するような場合である。〔…〕論理学者によれば、〔…〕「真」や「偽」という用語は、言明・命題に対してのみ適用されうるものである。批評的な物言いにおいてどのように言われるにせよ、画像は、そのいみにおいてけっして言明ではない。〔…〕このような〔画像に真偽が言えるという〕混乱が起きるのも不思議ではない。というのも、われわれの文化では、画像はふつうラベルがつけられるものであり、そしてラベルやキャプションは短縮された言明として理解できるからである。〔…〕科学の図版においてすら、当の画像の真理を決定するのはそのキャプションである。(ibid:67-68)
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文献情報
松永伸司「ビデオゲームにおける意味作用」東京芸術大学博士論文、2015年
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Ernst H. Gombrich, Art and Illusion: A Study in the Psychology of Pictorial Representation, 2nd Edition (New York: Bollingen Foundation, 1961).
【邦訳】『芸術と幻影:絵画的表現の心理学的研究』瀬戸慶久訳、岩崎美術社、1979年